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ビジョナリー・ピープル

  • タイトル:ビジョナリー・ピープル
  • 著者:ジェリー・ポラス(著)、スチュワート・エメリー(著)、マーク・トンプソン(著)、宮本 喜一(翻訳)
  • 出版社:英治出版
  • 出版日:2007-04-07

ミニレビュー

『ビジョナリー・カンパニー』の興奮ふたたび

『ビジョナリー・カンパニー』は、長期間にわたって成長を続ける企業に共通する因子を解き明かした名著。その著者のひとりジェリー・ポラス氏が、その個人版とでもいうべき本書を上梓しました。

引用:

 本書は世界中の二〇〇人以上の人たちとのインタビューをもとに書かれている。彼らはみな、彼ら自身の活動の場、仕事の世界、あるいはコミュニティで、大なり小なり、独創的な成果を上げながら、その一方で自分なりに生きがいを感じる生活を送ってきた人たちだ。こうした人たちとの会話から、改めてある原則を発見した。(p9)

その「原則」とは何か。それは、それぞれが個人的な何かを「発見」しているということ。

引用:

長期間にわたって続く成功と密接な因果関係があるのは、個人にとって重要な何かを発見することであって、企業にとっての最高のアイデア、組織構造、ビジネスモデルではない
(p9、太字は引用者による)

その「重要な何か」が「信念」の源になります。

引用:

彼らはみな、人生のあるポイントで、どう転んでもある種の必要性に行き当たってしまうコースを進んでいることに気がついていた。その必要性に行き当たったからこそ、社会が自分たちをどのように評価しようと関係なく、ものごとのありようを長期間にわたって変えるのだという断固とした熱い信念が生まれたのだ。
(p10、太字は引用者による)

「信念」の源となっている「重要な何か」「ある種の必要性」とは、いったい何なのか。他の箇所では、「価値観」「成功の定義」「生きがい」という言葉で言い換えられています。ビジョナリーな人は、その「価値観」を自分の言葉で定義します。

引用:

こうした人たちがこだわっている価値観は、彼らにとって生きがいについての直感的で納得のゆく解釈だ。彼らが頑なに守ろうとしていた信念は、人生の様々な事実ではなく、数々の大胆な決断なのだ。つまり、それは自分たちにとって何が正しいのかというさまざまな判断のことであり、他の人たちが口を挟むことではない。(p22、太字は引用者による)

意義、思考スタイル、行動スタイルの調和

本書の大半は、ビジョナリー・ピープルが持つ三つの要素についての議論に費やされています。それは『自分なりに定義した意義、創造力のある思考スタイル、そして効果的な行動スタイル(p42)』。永続的に成功を収めている人は、この三つの要素を調和させようと努力して(、かつそれに成功して)いるというのが、著者の発見。

引用:

自分にとっての生きがいとは何か、ということを強く意識し、そしてその次に自らの考え行動を一致させて自分なりの意義の定義を定着させる。これを筆者は調和と呼ぶ。(p43、太字は引用者による)

引用:

われわれが追求している本質的なバランスとは、三つの輪の整合性を図ることかもしれない、ということだ。つまり、何がわれわれの生きがいなのか(意義)、そうしたことをどのように考え、そしてどのように自分の時間を情熱にさけばよいのか(思考)、そしてそれらを達成するためにはどのような取り組み方をすればよいのか(行動)、この三者の整合性を図ることだ。(p362)

「成功」の再定義

上でビジョナリー・ピープルを「永続的に成功を収めている人」と言い換えましたが、そもそも「成功」とは何か。それは先に述べたとおり、各人が自分で定義するものです。著者は、自らを成功者と考えている人たちが「成功」をどのように定義しているかについて調査しています。
その結果、名声・富・権力を成功と定義している人は非常に少ないことが分かったそうです。かといって彼らが清貧をよしとしているわけではありません。そういった他者から与えられるものは行動の結果であり、成功したかどうかを決める基準ではないということです。

『ビジョナリー・カンパニー』がそうであったように、何となく分かっていたことを丁寧な調査と考察で形にしてくれる、その爽快さが味わえます。おすすめ。