ミニレビュー
著者は、自動車部品メーカーのデンソーにおける理念共有プロジェクトに関わった人事コンサルタント。世界30カ国に10万人の従業員を抱えるグローバルカンパニーにおいて、どうやって企業理念たる「デンソースピリット」を共有していくか。プロジェクトのドキュメンタリーを軸に、著者の学びや発見が語られていきます。
ドキュメンタリーっぽい部分が、やはり面白いですね。たとえば価値観の浸透といえば「宗教」ということで、著者はあるキリスト教系大学の神学部長へのインタビューの機会を得ます。
引用:
「カトリックの布教のプロセスにヒントを求めたいのですが」
神学部長は答えた。「高津さん、<布教>という時代は終わりました」
(p114)
我々が「布教」という言葉からイメージするのは、『伝道者が上に立ち、下にいる人々に教えを授ける』(同書p114)という行為ですが、そういうやり方はもとより永続的ではなかったとのこと。
では、どうすればよいのか?
引用:
神学部長は続けた。
「教えるのではなく、共に学ぶのです」
(p116)
そのような視点で考えてみると、「価値観を浸透させる」という言葉は既にどこか操作主義的です。それに気づいたプロジェクトは「共有」という言葉に切り替え、共に学ぶ姿勢を打ち出していきます。
プロジェクトにおける具体的な行動と成果は本書に譲りますが、各種の施策の背景にあるのは、この言葉に象徴されるスタンス。
引用:
「相手の心の中にある宝物」とデンソー・スピリットをつなぐことだ。
(p119)
(参考)
伝道者は「布教」せず、教育者は「教育」せず、セールスは「販売」しない