ミニレビュー
ヤマト運輸の育ての親にしてヤマト福祉財団の理事長である小倉昌男さんの書かれた本です。
小倉さんが共同作業所など障害者就労施設の施設長や職員向けに開いている経営セミナーの内容が核です。
現在障害者の方が月給1万円も稼げていない現状を改善すべく、もちろん国にも注文をつけつつ、関係者にも意識の改革を迫っています。
私財を投じて財団を作ったくらいですから福祉に対する思い入れは強く持っていらっしゃいます。それゆえに、時に厳しいともいえる指摘もあります。
まず、福祉的経済というものは存在しません。日本にあるのは資本主義――市場経済だけです。売り手と買い手があって商売をする。これが基本です。
障害者の施設が作ったクッキーには、「これは障害者が焼いたものです」と入っています。けれども、モノを売るときにそんな言葉は意味がありません。お涙ちょうだいで障害者のための慈善バザーでモノを売る発想から脱却できていない。
当たり前のようですが、施設などで働いていらっしゃる当事者の方には言いにくいことです。
「やってみよう」が基本スタンスの小倉さん、その真骨頂が最後の方に出てきます。経済・経営の基礎についての説明が終わったところで、まず思い切って月給を3万円に上げてしまえと提案します。
では、その原資をどこから調達すればよいかといえば、それはまず給料を払って、それから考えればいい。とにかく実行する。一歩踏み出す勇気が必要なのです。
経営というのは甘いものではありません。もうこれ以上は引けない、というぎりぎりのところで、道を選択しなければならないことが何回もある。それが経営です。だから私はいつもこう言ってきました。
「まず実行しなさい。そして実行しながら考えなさい。失敗したら、そのときはそのとき。その失敗を踏み台に、前に進めばいい。やればわかるし、やればできるのです。やらなければ、永遠にわからないし、永遠にできないのです」
全体にやわらかい語り口の本で、書いてあることもやさしいのですが、そのメッセージは実はハードです。福祉に興味がある方もない方も得るものがあると思います。
#この本はhatasanさんが推薦してくださいました。そのときの言葉もご本人の承諾を得てここに引用しておきます。
くろねこヤマトの創業者、小倉昌男さんが作ったヤマト福祉財団の活動を扱っています。
「障害者の月給1万円からの脱出」という副題は私が日ごろ感じてきた意識とぴったりです。
日本の福祉関係者の欠点、特に無意識のどこかで「してやっている」と「お金もうけはわるい」意識を鋭く突いています。清貧の思想は個人の自由でしょうが、それを人に押しつけて当然というのはなかなか抜けない感じがしますが、小倉さんはそこに具体的にメスを入れていて爽快です。