- タイトル:“心”はなぜ進化するのか―心・脳・意識の起源
- 著者:A.G. ケアンズ‐スミス(著)、Cairns‐Smith,A.G.(原著)、美都穂, 北村(翻訳)
- 出版社:青土社
- 出版日:2000-08-01
ミニレビュー
大まかに言って最初の半分は、化学・物理学・生物学・神経学の解説書です。本書のテーマである意識を定義し、著者なりの理論を構築するためのイントロダクションではありますが、ずいぶん詳細だなという印象を受けました。すべての記述を理解しなければ後半が理解できないというものではありませんが、バラバラに学ぶのは面倒なので、こういう科学的な厚みのある解説書があるということを知っておくのは、あとあと有益でしょう。
第9章「意識の量子論」は、わたしみたいな門外漢が抱きがちな疑問から始まっています。
量子現象の基礎の上に分子がある。分子がニューロンを作る。ニューロンが脳の回路を作る。脳の回路はわれわれが考え感じるときに活性化する。だからたぶん、心と物質の関係は、次の諸レヴェルから成る階層組織で表現できるだろう。
量子 → 分子 → 細胞 → 回路群 → 意識??
これは人々に気に入られそうな――だが、おそろしく得るところのない言い方だ。
そう、上のように矢印で関係づけられるからといって、量子の非局在性 → 意識の非局在性 → われわれはつながっている! みたいに論じられてもとまどってしまうわけです。
著者は意識の科学的な説明に挑戦する科学者の試みを紹介し、超伝導や超流動といったマクロ量子効果(量子効果が量子間を越えてマクロな物性・電気的特性にまで影響を及ぼすこと)が存在することを指摘したうえで、自分なりの期待を次のようにまとめています。
有用な機能に関連する蛋自質分子を、これほどにまで精妙に作り上げることができたという点で、自然淘汰は分子レヴェルで物質を組織化する、たぐいまれな力を持っている。そして、もし物理的に可能であるならば、自然淘汰が生物学的温度においてマクロ量子効果を発生させるように計画された機構をそなえているということも、けっして考えられないことではない。そして私は、その種のなんらかの効果が、われわれに意識の理論をも
たらしてくれるということに賛成したいのだ。