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お客さまがまた来たくなる ブーメランの法則


ミニレビュー

とっても楽しく読みました。アイルランドのスーパークインというスーパーマーケットの創立者が書いた、顧客志向についての実戦的な案内書。

「繁盛するしくみ」について教えてくれる本はたくさんありますが、実例の豊富さと顧客志向の高さ、そして親しみやすさで抜きん出ています。

リピートという経営指標

企業の目的は一つでも、「指標」をどう置くかで仕事のやり方は変わってきます。セールスパーソンなら個人としての売上高なのか利益なのか。バックオフィスの仕事なら生産性なのか社内顧客の満足度なのか。いちど指標がセットされると、その数値を上げることに各人の行動が最適化されていきますから、指標の選び方はとても重要な話です。
スーパークインが実践してきたのは『お客様に戻ってきてもらうことを最大の任務と考えよう』ということであり、タイトルの「ブーメランの法則」とはこれを指しています。

定量化できないリスク

まがりなりにも事業を営んでいる人間として、「リピート第一」はスローガンにすることはできても経営指標にするのは難しいことがよく分かります。というのは、リピートありきで考えていくと短期的な利益を損ねる可能性があるし、長期的に報われるとも限らないからです。たしかにリピートは大事ですが、資金繰りを脅かしてまで大事にするべきなのか…?

スーパークインがこれに挑んだ分かりやすい例を引用しましょう。スーパーはふつうレジのそばに菓子を陳列しますが、この会社はそれをやめました。

引用:

 

 レジを待っている間、子供はその欲望をかき立てるお菓子売場に目が向きます。お菓子をいくつか買い与え平穏を取り戻すまで、子供は泣き叫ぶことがよくあります。
 お客さまからのこのご意見に対して、各店舗のレジ一台からお菓子をはずすと、すぐに反応がありました。それはとても好意的なものでしたので、この企画を遂行する唯一の現実的方法は、すべてのレジに適用することだと納得せざるを得ませんでした。

レジ近くに菓子を置くのは定番戦術で、売上も予測可能です。それをゼロにしてしまって、本当にペイするのか?

引用:

 

 得る利益はコストより最終的には大きいであろうことは確信していましたが、財務担当を納得させる方法が見つかりませんでした。この売場変更が経営面でプラスになると証明できる具体的な利益を示せないことは認めざるを得ませんでした。

スーパークインではこのような不確かな情報に基づいてレジからお菓子を排除し、さらに全店に子供のための遊技場を完備しました。こちらは売上を生み出す貴重な店内スペースを削って子供の遊び場を作るということです。コストが掛かり、しかも利益を数字で予測することはできません。

これらの決定が良い成果をもたらしたと納得できたのは数年後だったそうです。

ほんとうのリーダーシップ

長期的には利益になると確信できても、数字で合理化できない決断をどうやって行うのか?答えは「直感」によって、です。

引用:

 

リーダーの役目は時として、「これは数字では表せないが長期的視野に立つ心構えだ。これをすることで長期的にはより多くの利益を得ると私は直感する」と社員にいうことです。
 これがまさにビジネス・リスクというものです。もし事業を継続したければ、もちろん直感が正しいに越したことはありません。
 顧客志向を成功させる重要なポイントは、直感を研ぎすますことです。

顧客とともに時間を過ごしていればこそ

上記のような一見乱暴な「直感」主義に、しかし読みながら大いに共感できるのは、著者自身が徹底して顧客に密着しているからです。どのくらい徹底しているかというと、この社長さんは社員や取引先と会う場所も「売場」なんです。

引用:

 

 たとえば、アイルランドのコカ・コーラ社のトップであるビル・リリーと当店の飲料売場で会ったときのことです。その打ち合わせの間何度か、ビルの会社の製品に関して具体的な問題をかかえるお客さまが何人か我々に近づいていらっしゃいました。
 帰りぎわ、ビルは過去六ヶ月間よりも私とのこの短い打ち合わせの間にコカ・コーラの市場について多くのことを学んだといっていました。

こんなエピソードが満載の楽しい本です。たった200ページ足らずのソフトカバーながら、価値は高いですよ。ちゃんとした営利企業の話なので、志と事業との両立を目指す、ソーシャルセクターの起業家の皆さんにもお奨めできます。

個人にもある「ブーメランの法則」

「情けは人のためならず」と言う通り、人ひとり生きていくうえでも、「ブーメランの法則」のようなものはありますよね。

明確なリターンは無くても「これは大事!」「これは面白い!」と感じて参加したボランティアワークが仕事につながったり。

長期的にWin-winを築くことの大事さや、Win-winのサイクルは常に相手のWinから始める心がけの大事さを改めて感じさせてくれた本でもありました。

…ということで起-動線的にはこのカテゴリに。