ミニレビュー
漢字の成り立ちをわかりやすく解説した本。中学生(以上)向けのシリーズ本の一冊ですが、いろいろな意味で面白かったです。
まず、漢字というものが実に美しくできていることが分かって面白い。美しいというのは、漢字が事象や概念を上手にシンボル化したという意味での美的な美しさと、形状と意味の関係が論理的に説明できるという、論理的な美しさの両方を含みます。
もうひとつ、この本には「主張」があるのが面白い。中学生向けの本というと、いわゆる「定説」をまとめているだけの本が多いような印象を持っていましたが、この本はそうではありません。白川 静という漢字学者の構築した体系に則り漢字の成り立ちを説明し、それが現在の定説の源である中国の古典『説文解字』よりも正しいのだという主張を展開しています。それが溢れている、この本の最後の部分を引きましょう。
引用:
今ここに、『説文解字』とは全く異なる方法と認識にもとづいた文字学が、その傍らに聳え立ったからです。それが限りなく、『説文解字』を圧倒するからです。体系は双び立つことができません。それはほぼ運命であるといってもよいかも知れないのです。
これを中学生が読めば、
「なるほど白川氏の解釈の方が説得力があるぞ、しかしここは著者が白川氏を応援するあまりか、展開がちょっと勇み足かな…」
というように、批判的な態度で読書する力が養えそうです。
最後に、漢字がふんだんに使われていて面白い。例えば上で引用した「聳え立った」という言葉は原文のままです。文章は中学生向けに平明になっていますが、漢字は普通に使われている。その代わり、読みがなが全ての漢字に振られています。
(参考)
> Make a Difference: 神さまがくれた漢字たち
(ここでこの本の存在を知りました)