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大人の投資入門


ミニレビュー

国内外の株式(だけ)に投資して、自分のための年金ファンドを作ろうという本です。このように要約すると乱暴に聞こえますが、メッセージにはかなり説得力がありました。大まかにはこんな感じです。

・公的年金に加えて、私的年金で老後のやりくりを設計すべき
・私的年金は、公的年金のポートフォリオと合成してバランスを考えるべき
・公的年金のポートフォリオは債券の比率が高い
・よって、私的年金は国内株式+外国株式中心で十分
・手数料を最小化し、かつ運用に手間を掛けないために、こんな方法がある

なぜ公的年金だけでは不足するのか、なぜポートフォリオを組むべきなのかといった理由については、公開されている情報や学説を根拠に分かりやすい説明があります。わたしも資産形成に興味を持ったときには、一所懸命ポートフォリオを考えたりしたものの、公的年金を合算するという発想はなかったので、ハッとさせられました。

結論にあたる「ETFなどのパッシブ運用を定時定額でやっていこう」「世界の経済成長に乗っていこう」という部分は、長期運用のスタイルとしてオーソドックスな主張ですが、それを支える根拠が明確なところがよいですね。

ただし、根拠は常に客観的とは限りません。もっとも注意すべきは、国内株式と海外株式の投資比率で、著者はずばり「半々」としています。他の部分の記述からすると、半々を最適とする客観的なデータでもあるのだろうと読み過ごしてしまいそうですが、このアロケーションには著者のこんな「思い」が込められています。

引用:

 

『私的年金』の資産配分を「国内株式」と「外国株式」を50%ずつとしたのも、日本経済の発展を私たち普通の市民の投資で応援したい、という筆者の思いが込められています。
 すなわち、純粋投資理論から言えば、『私的年金』では世界の株式時価総額シエアに合わせて「国内株式」15%、「外国株式」85%とするのが適当かもしれません。
 しかし、自国民が他国と同等にしか評価しない日本経済に未来はあるのでしょうか?
 そんな国に他国の投資家が資金を回してくれるでしょうか?
(p257)

投資のスタイルに関しては、アセットアロケーションを決め、コストの低いパッシブ運用の商品に定時定額投資をして、ときどきリバランスしていくという理論的な手法を提案しています。一方でアロケートする割合については、かなり大きな「思い」を込めています。

どんな思いをどの程度込めるかは、個人個人でじっくり考えるべきでしょうね。そんなことも含めて、考える材料を与えてくれる本でした。