ミニレビュー
社会的ジレンマというのは、人々が自分の利益や都合だけを考えて行動すると、社会的に望ましくない状態が生まれてしまうというジレンマです。
いま、ソーシャルベンチャーや地域通貨が解決しようとしている問題の根源はほとんど「社会的ジレンマを解く」ということになってしまいますね。
社会的ジレンマは自然界にも存在します(例えば、天敵を発見した個体が、自分が捕まるリスクを冒してまで群れに伝えるか?)。人間が、物理的には非力なのに他の動物と全く違った進化を遂げてきたのは、社会適応をうまく行ってきたから、つまり社会的ジレンマを上手に解決してきたからであるという記述があります。
人間は総じてこれまでは非常にうまくやってきた、だから現在のジレンマも解決できるはず、とは明記していませんが、そう思わせてくれる前向きな視点に好感を持ちました。
地域通貨の勉強会をしたときに、社会制度の設計を性善説に則って行うことはできないので、そこが地域通貨の限界になるという話がありました。この本で面白かったのは、ある条件が整えば、完全に利己的に振舞う人よりも完全なお人好しよりも、特定の原理に従って動く人々が大きな利益を得ることが指摘されていることです。
その原理は「みんなが」原理として紹介されています。学術的には「互恵性原理」とか「社会的交換ヒューリスティック」と呼ぶそうですが、要するに『お互いに協力行動には協力行動で報い、非協力行動には非協力行動で報いるという行動原理』。
著者はこういった個人の行動原理に加えて、一人ひとりの「意志」、そして場合によっては規制を組み合わせていけば、画一的な解はないものの、ジレンマは解消できるはずと説きます。
全体に平明な文章で読みやすいですし、200ページ強の新書によく情報を詰め込んだと思います。