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経営の未来

  • タイトル:経営の未来
  • 著者:ゲイリー ハメル(著)
  • 出版社:日本経済新聞出版社
  • 出版日:2008-02-16

ミニレビュー

●刺激的な問いの数々

著者はまず、技術やビジネス環境がこれほど速く変化しているのに『近代経営管理の重要なツールや技法のほとんどは、一九世紀の、南北戦争が終わって間もないころに生まれた人びとによって発明された(p6)』まま変わっていないことを指摘します。

これは、経営管理(Business Administration)の仕組みが十分に成熟したので、さらなる進化は必要ないということを意味しているのか。そうでないことは、この簡単な自問によって分かります。『よりよいものを求めるのはもう無意味であると言えるほど、我々の会社生活は充実しているだろうか。我々の組織は高い能力を備えているだろうか。(p7)』

この問いを皮切りに、著者は数多くの問いを読者に投げかけてきます。明示的な問いかけのリストになっているものもあれば、読者の考察を誘うような挑発的な文章もあります。

●どこまで大きく、本質に立ち戻って考えられるか

その問いの多くは我々の問題意識をかき立ててくれるものの、簡単に答えを思いつけるようなものではありません。それは『水に浸かっていない世界を想像できない魚のように、我々の大多数は、自分の経験の枠と一致しない経営管理慣行を想像できない(p160)』からです。

ひとつ例を挙げると、管理職がいて従業員がいるという組織構造。著者によれば、「従業員」という概念は近代経営の発明品のひとつに過ぎません。

引用:

 

二一世紀のほとんどの管理職が、経済的に自立していない従順な「従業員」という概念を、企業の営みの揺るぎない土台とみなしているようだが、(略)ヨーロツパの経済封建主義から逃れてきた一九世紀アメリカの職人や労働者は、何百万人もの子孫たちがいつの日か恒久的な「賃金奴隷」になることを知ったら、愕然としたことだろう。
 実をいうと、「エンプロイー(従業員)」いう概念は近代になって生み出されたもので、時代を超越した社会慣行ではない。(p162)

企業が従業員に求めていること、つまり『生産物ではなく時間を売ること、仕事のペースを時計に合わせること、厳密に定められた間隔で食事をし、睡眠をとること、同じ単純作業を一日中際限なく繰り返すこと(p163)』は人間の自然の本能に即したものでも何でもない(むしろ反したものである)がゆえに、この概念が永続的に続くと思い込むのは危険だと、著者は指摘します。

従業員という存在は不自然ではないか。この問いかけは、著者に次の自問を促します。『我々が「管理職」を必要とするのは、もしかしたら「従業員」がいるからかもしれない。(略)我々は従業員をつくり出す過程で、同時に管理職の必要性もつくり出したのだろうか。私はそうだと思う(p177)」』

●人間性を活かすビジネスを創ろう

本書には、「経営の未来」に向かって挑戦を続けている企業の事例も多く挙げられています。ホールフーズ・マーケット、W.L.ゴア・アンド・アソシエーツ、グーグル、セムコ、IBM、GEなど、いずれもユニークな成功事例として他の書籍や文献でも目にする(しかしなかなか追随者が現れない)事例です。そういった事例を敢えてあらためて採り上げているのも、「水に浸かっていない世界を想像できない魚」状態の我々に対する著者のちょっとした挑発なのかもしれません。著者の「経営の未来」に対する思いがよく現れている、最後の項から引用します。

引用:

 

今こそ、人間の自発性や創造力や情熱を――この新しい千年紀におけるビジネスの成功に欠かせない、これらの壊れやすい要素を――本当に引き出し、尊重し、大切にする二一世紀の経営管理モデルを築くチャンスなのだ。(p329)

ところで、副題は「マネジメントをイノベーションせよ」。原著には見あたらない言葉なので、出版社が付けたのでしょうか。すこし前に流行した「イノベーション・マネジメント」という言葉を裏返した、ちょっと気の利いた副題ですね。

コンセプトノート

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