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佐藤可士和の超整理術


ミニレビュー

論理に裏打ちされた、アートな問題解決

前半で、仕事のプロセスについての説明があります。これがとても興味深かった。

引用:

1.状況把握/対象(クライアント)を問診して、現状に関する情報を得る。
2.視点導入/情報に、ある視点を持ち込んで並べ替え、問題の本質を突き止める。
3.課題設定/問題解決のために、クリアすべき課題を設定する。

これは、ロジカル・シンキングの本に書いてあるような問題解決のアプローチ(例えば以下)にとてもよく似ています。

  • 問題は何か? ― 現状の結果と望んでいる結果との違いを図に描く
  • 問題はどこにあるのか? ― 結果を引き起こしている、現状を構成する要素を図に描く
  • 問題はなぜ存在するのか? ― それぞれの要素を分析し、なぜそれが問題を引き起こすのかを明らかにする
  • 問題に対し何ができるか? ― 望んでいる結果をもたらす変更案を論理的に系統だてて書いてみる
  • 問題に対し何をすべきか? ― 最も満足のいく結果をもたらすよう変更案を統合して新しい構造を作り上げる

分析的な問題解決のプロセス*ListFreak

そして、このプロセスに対するコメントも、よく似ています。

引用:

 プロセスとしては、実に単純です。でも、ひとつひとつに大きな意味がある。面倒だからといって、これらを飛ばして行動に移ると、本質から程遠い、的はずれな結果になってしまいます……。

論理的なほうの問題解決で曖昧になりがちなのは、三つ目の「なぜ」というところです。原因を探ろうとするとどうしても推論が入ります。因果関係を構造化しようとする手法もありますが、かなり複雑にならざるを得ません。結局、限られた時間なり資源の中でやっつけなければならないわけですから、問題解決者のセンスに頼るようなところがあります。

この本では、問題の原因を一気に掴む「視点導入」という印象的な言葉が使われています。問題の状況がしっかり把握できたら、そういう問題(群)を丸ごと解決できるような「視点」を探すということです。ここはやはりウンウンと考えるしかないようで、本に具体的なメソドロジーが書かれているわけではありません(ヒントはいろいろと散りばめられています)。

ただし「視点導入」のためには、相当な「整理」が必要でしょうから、佐藤氏が整理を強調されるのは分かりますね。この本では空間 → 情報 → 思考と三段階に分けての整理術を披露しています。

デザインとは、整理である

本書の冒頭で、過去の事例を振り返ってこのように表現しています。

引用:

僕が勝手なイメージを作り上げるのではなく、クライアントから問診のごとくヒアリングを重ね、相手の抱える課題や伝えたいことをきちんと整理することで、表現すべきかたちが必然的に見えてきたのです。

あとがきでは、デザインは「クリエイティビティあふれる整理術」であるという表現もあります。アートディレクターたる自分の仕事の根底にあるのは、ゼロから何かを創造するのではなく、相手の課題を整理することであるという、この発見に佐藤さんのブレークスルーがあったように思います。

いろいろななものを「整理」して、すっきりしたくなる本でした。