- タイトル:「決定的瞬間」の思考法―キャリアとリーダーシップを磨くために
- 著者:ジョセフ・L. バダラッコ(著)、Badaracco,Jr.,Joseph L.(原著)、寿宏, 金井(翻訳)、俊造, 福嶋(翻訳)
- 出版社:東洋経済新報社
- 出版日:2004-06-01
ミニレビュー
「善」か「善」かの選択
人事部のあなたは、親しい同僚のAさんが一週間後に退職勧告を受ける可能性が高いことを知ります。ところがその日のうちにAさん本人から相談を受けます。明日30年ローンを組んで不動産を購入する契約を結ぼうとしているのだが、会社の先行きは大丈夫だろうかと。友人としての相談ではありましたが、社内事情をよく知る立場の人間から情報を得ておきたいという思いもあるようです。
わたし達はしばしば、上記のような難しい選択を非常に短い時間でしなければなりません。この本が扱っているのはまさにそのような困難な選択に臨んだときにどうすればよいのか、ということ。起-動線のテーマにぴったりで、とても面白く読みました。
そのとき発すべき問い
経営者であれ一社員であれ、わたし達が仕事の中で行う選択の中には、数字だけを見て決められないものがあります。その選択が個人の価値観や、企業が社会に対して持つべき倫理と合わないときにどうすべきか。そういった問題は企業倫理(ビジネス・エシックス)と呼ばれます。
この本は、下記のような事例を取り上げながら、一人ひとりがどうやって自分なりの行動規範を見いだしていけばよいかを考察します。
・自分の信念に反する職務命令を受けたとき
・ある部下に思いやりを示すことが、他の部下のやる気を損なう原因になるとき
・社員・株主にとっての利益と、社会倫理的な責任とが対立するとき
行動規範といっても、「こういうときはこうすべき」というルールが書いてあるわけではありません。そういう単純なルール化が出来ないことを知り抜いている著者は、古今東西の哲学者や文学作品からの引用を交えながら、「そのとき発すべき問い」は何かを挙げています。
例えば個人的な信念だけに基づいて仕事の判断を下せば、自分はすっきりします。しかしその結果として職を失えば、家族に累が及ぶかもしれません。しかし視点の違った複数の問いを自分に投げかけることで、現実的かつ深い考慮ができるようになります。
その問いの例は、先日別の本の書評で取り上げました。
監訳者の金井 壽宏教授が長い解説をつけてくださっており、よいサマリーになっています。