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日々是修行 現代人のための仏教100話


ミニレビュー

犀の角たち』が面白かったので、著者の新作を読んでみました。朝日新聞の連載をまとめたそうです。

五戒の中に「不殺生戒」つまり生き物を殺さないというのがあります。妥当な心得のように思えますが、植物はどうなるのか、ミドリムシのような動植物両方の特徴を備えた生物はどうなるのか、石けんで手を洗うと微生物が死んでしまうがいいのか、といった疑問も出てきます。著者はそんな質問にも答えながら、釈迦の教え(最初期の仏教)がどうであったのかを解説してくれます。

個人的に共感したのは、輪廻転生の解釈。人間の知覚・感情・意識の生成に関する初期仏教の解釈はすごく精密で、しかも現代の心理学や神経科学の知見とも整合しそうに思うのですが、輪廻転生のほうはどうにもよく分からない。

輪廻転生、つまり現世の行いが悪ければ来世は畜生道に落ちるぞ、みたいな話は、釈迦の発明ではなく「当時の多くのインド人が認めていた一般的世界観」なのですね。仏教学者の著者はそこまで語りませんが、わたしが勝手に敷衍して考えるに、釈迦は輪廻転生という当時の支配的な思想を認めつつ、ある種のアンチテーゼとして解脱(悟りをひらいて輪廻転生という思想から脱ける)という発想にいたった(と著者は考えている)ように思います。

引用:

私は釈迦の信者だが、輸廻の実在性は信じない。つまり、「もはや輪廻しない」という確信こそが真の安らぎをもたらすという、釈迦の精神は尊敬するが、「天の神様」や「地獄の亡者」が実在すると考える、その時代のインド人の世界観を丸ごと鵜呑みにはしないということである。