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サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代


ミニレビュー

「サブリミナル」と聞くと、いわゆるサブリミナル効果(Wikipedia)を連想します。たしかに意識下で起きていることが話題ではありますが、マーケティングの本ではありません。著者には1996年に『サブリミナル・マインド―潜在的人間観のゆくえ』という本があり、おそらくヒットしたため、本書のタイトルにも「サブリミナル」が付いたのでしょう。著者はカリフォルニア工科大学で神経科学を研究している教授で、人間に自由意志はありやなしやという議論で必ず引用される実験を行ったベンジャミン・リベットの『マインド・タイム 脳と意識の時間』の訳者でもあります。

本書のテーマは副題「情動と潜在認知」に凝縮されています。神経ネットワークを「認知系」と「情動系」に、それぞれのはたらき方を「顕在的」と「潜在的」に分けると、2×2のマトリクスができます。本書は潜在的な(無自覚的にはたらく)認知と、その多くが潜在的なプロセスである情動についての研究を紹介しています。

新書ながらかなり盛りだくさんな内容なので中身をかいつまんで説明するのが難しいのですが、当サイトのテーマである意志決定に関しては、たとえば独創的な選択肢を思いつくという行為についての考察があります。

まず、将棋の棋士などが放つ「妙手」は、論理的に考えて案出するというよりも「降りてくる」ケースが多いことに触れます。

引用:

あくまでも天才のアクティヴな努力によってのみ見出される妙手でありながら、その本人の主観にとっては突然「あちらから」やってくる。あるいは天啓のように「閃く」。その現象学的な立ち現れこそが、解明すべき最大の謎であるとさえ言えるほどです。

「あちら」とはどこなのか。むろん、潜在認知の領域です。著者は意識と無意識のあいだに前意識という緩衝領域を設けることで、独創的な手段が降りてくる現象や、降りてくるにもかかわらずそれが予感できるメカニズムを説明しています。

引用:

この(引用者注:独創性が受動的に現れるにもかかわらず、事前に予感できることがあるという)一見矛盾したありようは、(すでに指摘した通り)潜在認知の過程から顕在認知の領域に結果が読み出されるときに共通する「現象的な特徴」なのです。受け身の、また偶然を装った立ち現れ方をするのは、それが潜在認知の領域=私の中の他人の領域からやってくるからです。 一方予感できるのは、それにもかかわらずその知が潜在的には知られているからです。