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ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か


ミニレビュー

■ ワーク/ライフ・バランスの本でもある

舞台は機械メーカーで、主人公は工場長。3ヶ月の間に収益体制を改善しなければ工場閉鎖という窮地に追い込まれた主人公は、一方で妻の家出という家庭問題を抱えつつ、企業の真の目的は何か、その目的に沿って工場のパフォーマンスを上げるにはどうしたらよいか、理論的に積み上げられた答えは、従来の製造業の常識を覆すものだった・・・

本の主題は、製造工程における全体最適を考えるための制約理論という理論を噛み砕いて説明することです。個別最適が超得意な日本人にこれを読ませたくないという著者の意向で15年以上翻訳されなかったといういわく付き。

実はわたしは数年前に原著を購入したのですが、著者の思惑通り(笑)途中で挫折してしまっていました。今回は日本語版で再挑戦してアッという間に読了。いやー面白かった。

もし数年前に読んでいたなら気が付かなかったであろうポイントにも気が付きました。それは、ほぼあらゆる書評で刺身のツマのように扱われている、主人公と妻との別居・そして復縁のサブストーリーの持つ意味です。

生産性を上げて、それでどうするのか。空き時間にまた新しい仕事を押し込むだけであれば、仕事好きの個人にとっての「個別最適」ではあっても、社会の全体最適にとっては有害です。

社会人の長時間労働(単純に時間で測るのがフェアでなければ、仕事への過度なコミットメント)が長期的な観点で見た日本の競争力を落としているというジレンマ(詳しくは『会社人間が会社をつぶす―ワーク・ライフ・バランスの提案』を参照のこと)から脱出するためには、主人公アレックスのように
「会社として儲けるために仕事の効率を上げる」という視点と、
「自分の時間を作り出すために仕事の効率を上げる」という視点の、
両方を併せ持つことが必要なのだと思います。それが象徴されている箇所をひとつ引用しておきましょう。主人公は担当工場の収益改善を成し遂げ、本社の管理職となってより大きな責任を負うことになり、恩師ジョナに相談します。

引用:

「これまで君は、どうすれば工場を効率的に運営できるかを学んできた。(略)君が本当に学びたいのは何なんだ。もっと具体的に説明できるかね」ジョナは、多少苛立っているようだ。
「ええ……、工場や部門や会社、どんな種類や大きさの組織でもいいんです、どうすればうまく管理運営できるのか、その方法を学びたいのだと思います」そう言って、少しためらってから私は続けた。「自分の人生を管理する方法なんかも学べれば本当はいいんですが。でもそれは、少し欲張りすぎかもしれませんね」
「どうしてかね。賢明な人だったら、自分の人生をどう管理したらいいのか知りたいと思うのは当たり前じゃないのかね」ジョナの答えは意外だった。

このさきアレックスが何を掴んでいくかは本に譲ります。ここで「管理」と訳されているのは原文では”manage”で、日本語の「管理」とはやや意味合いが違います。ご興味のある方向けに、さっき埃をはらって本棚から出してきた原著から、最後の2文に相当するところを引いておきましょう。

引用:

“It wouldn’t be bad to learn how to manage my life, but I’m afraid that would be asking for too much.”
“Why too much?” says Jonar to my surprise. “I think that every sensible person should want to learn how to manage his or her life.”

ところで『会社人間が会社をつぶす―ワーク・ライフ・バランスの提案』の著者であるパクさんの話では、
「仕事の効率を上げて早く家に帰ったって、やることがない」
と真顔で語る管理職(マネジャー)の方も多いとか。人生のマネージメントを考える上でも、得るところのある一冊かもしれません。

ということで、敢えてこのカテゴリ。

# 著者が自分の製品の教育・啓蒙を目的として、物語を書いたという点で『金持ち父さん 貧乏父さん』に通じるものがあるのですが、ロバート・キヨサキがボードゲームや教材で目論見通り儲けたのに比べて、こちらのエリヤフ・ゴールドラットさんは、この本に威力がありすぎたおかげで自社開発の生産管理ソフトが売れなくなり、社長の座を追われたとあとがきにあります。うーむ。

(参考)
『ザ・ゴール 2 ― 思考プロセス』
『チェンジ・ザ・ルール!』

コンセプトノート