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その数学が戦略を決める


ミニレビュー

統計を学びたくなる

序章は、ワイン好きの経済学者のエピソードから始まります。彼はたった3つのパラメータ(冬の降雨、育成期平均気温、収穫期降雨)によって、任意の年のワインの質を評価することに成功しました。これは市場に出る前のワインの品質を予測できることを意味します。専門家からは酷評されたものの、時間が経つにつれ、その予測の妥当性が徐々に認められているそうです。

この本には、そんな例が大量に出てきます。

引用:

 

われわれはいま、馬と蒸気機関の競争のような歴史的瞬間にいる。直感や経験に基づく専門技能がデータ分析に次々に負けているのだ。(p20)

データが大量にあれば、回帰分析にかけることで、任意の因子がどのくらい関係しているかを知ることができます(第1章)。データが無いとしても、その場でデータを作り出すことも可能です。これが無作為抽出という方法(第2章)。同じ母集団から無作為に抽出された2つの集団に違うデータを投げ込んでみれば、出てくる結果の違いは投げ込んだデータのみによってもたらされたといえます。消費者はどういう割引条件を好むか、どういうデザインのWebサイトを好むか、企業は消費者を相手に少しずつ試していくことで、意思決定の精度を高められます。

では、人間の出番はどこに残されているか。本書全体にわたってところどころ示唆がありますが、一言で言えば……。

引用:

 

一言でいえば仮説立案だ。人間に残された一番重要なことは、頭や直感を使って統計分析にどの変数を入れる/入れるべきではないか推測することだ。統計回帰分析は、それぞれの要因につける重みは教えてくれる(そしてその重みの予測精度も教えてくれる)。だが人間は、何が何を引き起こすかについての仮説を生み出すのにどうしても必要なのだ。回帰式は、そこに因果関係があるか試し、その影響の大きさを教えてくれるが、だれか(人間でも組織でも)がその試験そのものの仕様を決めなくてはならない。(p169)

2SDルールとベイズ理論

著者は最終章で『2SDルールとベイズ理論について知っていると、自分自身の意志決定の質を高められる。』と述べています。2SD(2標準偏差)ルールというのは、『正規分布する変数が、平均値から正負を問わず2標準偏差内にある確率は九五パーセントである(p263)』ということ。直感的でない標準偏差という数字を、直感的に分かりやすい確率と比率に置き換えて考えることができます。もし平均値を知っていれば、ある事象がどれくらい平均からかけ離れているのかの推計がしやすくなるし、95%が入りそうな区間を想定することで、ある集団の平均値を推計することもできるとのこと。なるほどなるほど。何かそんなことを大昔に学んだような……(汗)。

またベイズ理論については、この本ではほとんど言及されていませんでしたが、『後悔しない意思決定』という本ですこし勉強したことがあります。たしかに、人間の直感の頼りなさを感じさせてくれる理論です。

わたしは5冊くらい並行して読むのを常としています。当然、面白い本から先に読み終えてしまいます。この本は300ページを超えるハードカバーではありますが、どんどん読めてしまいました。数式などはほとんど出てきませんし、魅力的な事例が多いからでしょうね。各章末には、訳者による簡潔・的確なまとめが付いています。