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バカの壁


ミニレビュー

養老猛司さんの独白を編集部が文章化していくという「語りおろしエッセイ」という形式。売れている割にAmazonの書評が芳しくないのは、この語りおろしのせいで話題も文章そのものもやや散漫になっているからのようです。特に養老さんの本の愛読者ほど、「焼き直し」「内容が浅い」など辛口の評を寄せている様子。わたしはほとんど読んだことが無かったので楽しく読みました。

本を書くのと違って、対談やインタビューなどの最中はじっくり考えるということができません。ですからその方の「持論」、日頃から強く思っていることが出る傾向にあります。その意味で対談・インタビューなど人が話したことを文章として読むのは面白いのですが、この本もそのような面白さがあるのでは。
「バカの壁」は「ここがおかしい日本人」みたいなエッセイ集です。主に何について述べているか、最終章の冒頭部分から。

引用:

これまで「バカ」について、また思考停止を招いている状況、あべこべの状況について述べてきました。現代人がいかに考えないままに、己の周囲に壁を作っているか。そもそもいつの間にか大事なことを考えなくなってしまっていることを指摘してきました。

彼の提案のひとつは「人生の意味を考える」こと。『夜と霧』のフランクルの言葉を引用しています。
我々の社会は「働かなくても食える状態」を目指して一生懸命合理化を進めてきて、ある程度達成しているように見える。ホームレスであっても餓死の心配はほとんど無く、リタイアして毎日が日曜日という老人もたくさんいる。『しかし、彼を理想の境遇だという人は最早なかなかいない。』
どういう社会が望ましいのか、どういう状態が自分にとって幸福なのかを改めて問い直すべきという指摘は、いまいろんな人が色んな角度から指摘していることでもあり、起-動線の活動もそんな大きな文脈の中にあると思うのですが、基本的ながら大事なことです。

もうひとつ、『基盤となるものを持たない人間はいかに弱いものか』という論考も面白く読みました。昔から百姓が強く、都会の人間は、見かけ上の支配層であっても、弱かったというのです。食い物を握っている百姓と違って都会の人間には頼るものがない。そこで単純な一元論的宗教に頼りがちになるという話でした。

ヘルスケアやストレスマネジメントの話ではありませんが、健全な批評精神を保つという観点でこのカテゴリに入れておきます。