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中島敦―父から子への南洋だより


ミニレビュー

昭和16年に当時日本が占領していたミクロネシアの島々に単身赴任していた作家から、奥様と2人の男の子への手紙を集めた本です。

当時中島敦は32歳。翌年帰国して、その年の暮に33歳で亡くなりました。

中島敦は優れた仕事(文学作品)と、2人の子供を世に遺しただけでなく、これほどの愛情を家族に注いでいた。

これは素晴らしい書簡集だと思う一方で、自分の身に置き換えてみるとどうか。わたしはもう33歳を過ぎたので、「あと○年で中島敦が生涯を生き切った歳だ!」と思うことすらできません。そう考えると、焦りのような、なんとも表現できない気持ちになります。

絵葉書の両面のハードコピーを沿えた上で文章を忠実に(削除やルビや誤字まで)活字に引き写しています。子供向けの絵葉書は大きな活字で、奥様向けの書簡は小さな活字で組むなど、丁寧な編集ぶりに好感が持てます。

もともと中島敦は大好きなので、よけいに泣けました。