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心にいどむ認知脳科学―記憶と意識の統一論


ミニレビュー

引用:

はじめに
1 脳から心へ
2 目で見る・脳でわかる
3 記憶すること・忘れること
4 認知記憶システム
5 認知記憶のニューロン機構
6 心にイメージを浮かべること
7 意識のトップダウン仮説
8 無意識下の記憶

副題の「記憶と意識の統一論」とは何かを理解するために、まず「意識の三つのレベル」を引用します。

1. 覚醒している状態 … そもそも目が覚めていなければ、外界の刺激を受けとったり自由に行動したりできない。
2. 外界に注意をはらっている状態 … 外界にあるたくさんの情報のなかから必要なもののみを選択するためには、ぼうっと目ざめているだけではダメで、能動的に注意を向ける必要がある。
3. 自分がしていることを自分で分かっている状態 … 自己意識・自己認識とよばれる状態。いわゆる「心の状態」。

人が何かを知覚して記憶する流れを、著者は「特徴分析装置 → 記憶貯蔵庫」と表現します。著者の仮説は、第3レベルの意識が「記憶貯蔵庫 → 特徴分析装置」という流れとして理解できるのではないかということ。

引用:

知覚は、特徴分析装置から記憶貯蔵庫へのボトムアップの過程である。たとえば、視覚とは、自分の見ているものが何であるかがわかる過程である。それと同時に、「自分が何かを見ている、ということがわかる」ための第三レベルの意識が生ずる。この意識における情報の流れを、記憶貯蔵庫から特徴分析装置へのトップダウンの過程であると考える。すなわち、知覚の情報の流れを逆にたどることによって、知覚しているという状態を、脳自身が確認できるのではないか。

2004年に出版された『脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説』を思い出しました。受動意識仮説というのは、「私」という意識はエピソード記憶のコンテナとしてつくり出された(にすぎない)という説です。本書は1997年出版。記憶と意識の関係をさぐる研究の歴史が感じられた一冊でした。