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コンセプトノート

301. Win-Winの好循環を回すもの

おお、ありがとうございます〜

最近よく仕事のメールをやりとりするAさんの口グセ(メールなので筆グセというべきでしょうか)は、「おお、ありがとうございます〜」です。ご本人はどちらかというとゴツい感じの男性ですので、外見とはちょっとアンバランスな言葉づかいです。でも、とてもよくお人柄が出ています。初めて見たときには思わずニヤッとしてしまいました。

メールの返信は1日2回と決められている方もいらっしゃいますが、Aさんはメールが出せる状況にあるならばとりえず返事をするタチのようです。受領確認の代わりに「おお、ありがとうございます〜」が返ってきます。

なんとなく、Aさんとの仕事は速く進みます。なぜかなと考えていて、ふとこの筆グセに思い当たりました。わたしは、この「おお、ありがとうございます〜」メールを好ましく感じているのだと思います。

期限よりも少し早めに情報を出してあげるとか、補足の情報を教えてあげるとか、ちょっとしたプラスアルファを添えることで、あたかもお買い物をしてポイントを貯めるがごとく、この言葉の入ったメールをもらおうとしているのではないかと、気づきました。

Win-Winダイアグラムの推進力

拙著『クリエイティブ・チョイス』では、利害の対立を乗り越えるためのツールの一つとして「Win-Winダイアグラム」を紹介しました。

◆「Win-Winダイアグラム」の作り方
1 理想的なWin-Winのサイクルを描いてみる。
2 因果関係を考えて、サイクルを具体化する。
3 どこからサイクルを回せばよいか、もし外から弾みをつける場合にはどんな手が打てるかを考える。
4 相手のWinが先にくるような提案を考える。

「Win-Winダイアグラム」は「価値のやり取り」の設計図です。これに「気持ちのやり取り」が重なることで、この好循環は速く大きくなっていくのではないでしょうか。

ダイアグラムを描くように、気持ちのやり取りが「設計」できるとは思いません。操作主義的な設計はむしろ、相手の気持ちを遠ざけてしまうリスクの方が高いように思います。しかし、ひとつひとつのやりとりに気持ちを込めていくことはできますし、Aさんのように半ば紋切り型の言葉であっても、やり取りを楽しくすることはできます。

これは単に個人として仕事を楽しくするコツではありません。このような小さな気働きの有無は、結果として組織の意思決定の速度と質にも大きな影響を及ぼしているはずです。組織の意思決定も、個人同士の無数のコミュニケーションの集積のうえにあるのですから。