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コンセプトノート

302. イノセント・クエスチョン(純真な質問)

質問は、場の理解を深めも壊しもします。場の目的を思い出させてくれるような質問もあれば、質問の名を借りた自慢や叱責もあります。

前者の「深める質問」の中でもとりわけ難しいのは、その質問によって「そんなことも知らないの?」と思われかねない、根本的な質問でしょう。そんな質問を思いついた(けど、問う勇気が出ない)ときに便利な言葉がありました。

それは「イノセント・クエスチョン」。「純真な質問」という訳がついています。リチャード・ワーマンの『理解の秘密』で見つけました(この本は15年来の愛読書なのですが、忘れっぽいせいか興味の対象が移っているせいか、読むたびに発見があります)。

「イノセント・クエスチョン」という言葉は、5ページほどの文章に付けられた見出しでもあります。この本は、便利なことに目次と要約が一体化していますので、目次から当該部分を引用しましょう。

イノセント・クエスチョン……………
◎情報を導きだし、あるいは問題点をあきらかにするような質問はイノセント・クエスチョン(純真な質問)である。
◎自分の博識ぶりを見せびらかすため、あるいは他人のまちがいを指摘するような質問は学習を破壊するものである。
◎インテリは質問が苦手。
◎どんなプロジェクトもイノセント・クエスチョンの思恵を受ける。

リチャード・ソウル ワーマン 著 『理解の秘密―マジカル・インストラクション』(松岡 正剛 訳、NTT出版、1993年)

なぜ「便利な言葉」と思ったか。一つには、名前が付くと、それが世間で認められた概念であるという示唆になるからです。

たとえば「ちょっとすみません。これはいわゆる『イノセント・クエスチョン』ですけど、そもそも……」というかたちで、意図を示しながら問いかけやすくなります。

もちろん、そのためには言葉の認知度が高まる必要があります。わざとあまのじゃくを演じる”Devil’s advocate”という言葉(以前に書いた『「天邪鬼の役」で発想を磨き上げる』という記事で触れました)も、便利な概念を表しているのに、広まりませんね。言いづらいせいもあるでしょう。

二つめの理由は、自分がその概念を思い出すきっかけになるからです。私の記憶の中では、「イノセント・クエスチョン」という言葉にワーマンの本の内容が凝縮されています。自分で使う限りにおいては、認知されていてもいなくても関係ありません。

『クリエイティブ・チョイス』では「目的と手段の往復運動を続けよう」と書きました。「イノセント・クエスチョン」は、目的に立ち戻りたいときに使える言葉だと思います。