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コンセプトノート

281. 自利利他

リーダーシップ研修の設計をしているときに、先輩講師から「自利利他」(じりりた)という言葉を教わりました。大乗仏教の言葉で、TKC全国会という税理士・公認会計士の組織の経営理念として知られているとのこと。TKC全国会の創始者である飯塚 毅氏(故人)の解釈が、会のHPにありました。

 大乗仏教の経論には「自利利他」の語が実に頻繁に登場する。解釈にも諸説がある。その中で私は、「自利とは利他をいう」(最澄伝教大師伝)と解するのが最も正しいと信ずる。
 (略)
 世のため人のため、つまり会計人なら、職員や関与先、社会のために精進努力の生活に徹すること、それがそのまま自利すなわち本当の自分の喜びであり幸福なのだ。

(会報『TKC』平成10年新年号)

自分が利を得ようと思ったらまず他人に利を与えよとか、自分を殺して他人に尽くしなさいとかいう話ではない。利他がそのまま自利であるということですね。

「利他がそのまま自利である」よりは「自利がそのまま利他である」のほうが、わたしにとっては納得がいきます。この表現は、当ノートでも再三引用しているチャールズ・ハンディの「適正な自己中心性」という概念と見事に呼応するからです。

適正に自己中心的であることは、最終的には、自己を超えたもっと大きな目的を見出すことによって、自分自身を最大限に活用するという責任を受け入れることだ。自分自身を超えた目標をめざすとき、自分自身を最も満足させることができるというのは、快楽主義の逆説である。(p15)

チャールズ・ハンディ 『もっといい会社、もっといい人生―新しい資本主義社会のかたち』

自分のやりたいことを突き詰めていくと、それが自分の中では完結しないことに気づく。やりたいことに挑戦し、他人に認めてもらったり感謝されたりするサイクルに生きていく中で、自分より大きな何かに貢献することが、究極の快楽であることを知る。つまり究極の自利とは、利他である。ハンディはそう言っていると理解しています。

Passion-Ability-Value

さらに自利利他は、『「求められる人材」から「活躍する人材」へ』というノートで紹介したPassion−Skill−Valueの図にも通じます。自利がPassion、利他がValueです。自利利他というのはPassionの円とValueの円が完全に重なった状態なのかもしれませんね。

わたし自身はとてもそういう状態からは遠いと言わざるを得ませんが、上のような次第で自利利他という言葉は強く印象に残りました。