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コンセプトノート

424. 第三極を立てる

よく、考えるときには「収束」と「発散」が必要と言いますよね。このように収まりのよい対〈ペア〉を見せられると、それが考えるべきことのすべてのように思えてしまいます。

しかし、そこに第三の要素を持ち込むことで、白か黒か、左か右かで済んでいた話が一気に複雑になる(奥行きが出る)と同時に、「これで整った」という感覚を持てることがあります。拙著『クリエイティブ・チョイス』で(勢い余って)「第三の解は必ず見つけることができる」と宣言してしまってから、こういった話に惹かれ続けています。

たとえば、思考の「収束」「発散」に第三の要素を付け加えることはできるでしょうか?

知能の研究で知られるロバート・スタンバーグは『思考スタイル―能力を生かすもの』という本の中で、知能を三種に分類しています。まずは「分析的(analytic)」な知能と「創造的(creative)」な知能。これらはいわば「収束」と「発散」です。三つめは「実際的(practical)」な知能。たしかに収束と発散はよいペアですが、言われてみれば、われわれの思考は常にそのどちらかだけということはありません。文脈に応じて発揮される実際的な知能が定義されてみて、初めて「これで整った」という感覚を持てました。

スタンバーグと同じように、ミンツバーグは経営をサイエンス(分析)とアート(直観)と○○の三幅対として捉えました。
サイエンスとアートは、それだけで完結性の高い対ですが、ここにクラフト(経験)という要素を加えることで、サイエンスとアートだけでは片手落ちであったことに気づきます(参考:「クラフト:サイエンスでもアートでもない知」)。

労働といえば「肉体労働」と「頭脳労働」に二分されます。これだけで十分な分類にも思えますが、ここに「感情労働」(Wikipedia)という言葉が持ち込まれたことで、肉体労働でも頭脳労働でもない、というよりはむしろその両者であるような、第三の労働形態の存在が実感されます。