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コンセプトノート

567. 疑いと自信と素直さ

素人だがエキスパート

「ふつうの会社と違うので、びっくりしないでくださいね」

先日、思考トレーニングの講師として登壇するA社に初めてうかがう前に、A社を紹介してくれた方から言われた言葉です。

参加者はA社の実務を切り盛りする30歳台の部長クラスの方々。5〜10年後の社長候補でしょう。びっくりしないようにというのは身なりのこと。たしかに片耳ピアスやスキンヘッドなど、一般企業の管理職のイメージとはかけ離れていました。

しかしトレーニングを始めてすぐ、意欲も能力も非常に高い集団であることが分かりました。論理的にそれが最善だからというよりは、実務上そのように考えているからという理由で演習への回答を考えるのですが、それが的確です。苦手かなと予想していた経営分析的なパートも、数字を苦にせず取り組む様子を見れば、実務で鍛えられているのがわかります。

見た目のゆるさと思考の鋭さのギャップに興味を引かれ、昼食の休み時間に、ある方にそれとなく経歴を尋ねてみました。すると、大学は行っていない、高校ではケンカをして暮らしていたとのお返事。ちなみにA社はグループ売上高1千億円を優に超える企業です。そんなこんなで、参加者の皆さんにすっかり魅せられてしまいました。

パラダイム・シフター

その後『戦略の教室』という本を読んでいたとき、「バラダイムを転換する4種のアウトサイダー」というリストが目に飛び込んできました。ジョエル・バーカーの『パラダイムの魔力』からの引用で、パラダイム・シフトを起こせる人には4つのカテゴリーがあるというくだりです。
(『戦略の教室』ではなぜか著者名が「パーカー」になっていたので、慎重を期して原著『パラダイムの魔力』から引用します)

  1. 研修を終えたばかりの新人
  2. 違う分野から来た経験豊富な人
  3. 一匹狼
  4. よろずいじくりまわし屋

パラダイムを転換する4種のアウトサイダー*ListFreak

このリストが目に飛び込んで来たのは、A社での経験を反芻していたからでしょう。思い返せばトレーニングの冒頭、トレーニングに対する期待をグループ毎にまとめてもらっていたとき、次のような言葉を耳にしました。

ずっと感性で仕事をしてきたおれたちが論理を学べばエライことになるぞ。

学びを得たこの人たちはきっと「違う分野から来た経験豊富な人」のように既存の業務を疑い、「研修を終えたばかりの新人」のようにまっすぐに考え、これまでA社がそうしてきたように、業界のパラダイム転換に挑戦していくことでしょう。

自信と素直さを両立させるもの

どんな特質がわたしにそう感じさせたのかと考えてみると、豊富な経験に裏打ちされた「自信」、そして新しい学びを活かしていこうという「素直さ」という2つの言葉が浮かんできます。

自信は傲慢へ、素直さは盲従へと、それぞれ反対の方向に傾きがちなことを考えると、これらは併せ持つのが難しい特質です。

なぜ、彼らはそれを併せ持てるのか。リストを読み返しながら、そのキーワードは「一匹狼」にあるように感じました。『パラダイムの魔力』では、「一匹狼(maverick)」は既存のパラダイムの内側に居ながらそれに囚われずにいられる、ある種の奇人を指します。これが、A社が掲げている行動指針の一つである「常識を疑う」という言葉と符合するように思うのです。

常識を疑い、変化を是とする価値観を育てる。
自分の力に自信を持つ。
それをさらに磨くために、新しい学びを素直に受け入れる。

彼らを見習おうと思います。