3点見積法
時間・コスト・収益など、量を大まかに見積もるときに、楽観的-本命-保守的の3種類のシナリオを作るときがあります。これによって台風の進路予想図のように予想に幅を持たせることができるうえ、本命シナリオよりも精度の高い見積もり値を得られます。
たとえばAという仕事にかかる時間を見積もるとします。過去の経験などを鑑みて、おそらく60時間、理想的に運べば30時間、最悪の場合120時間かかるだろうと考えるなら、見積もりは次のように計算されます。
(30 + 60 + 120) / 3 = 70 [時間]
本命シナリオがたしからしいと見込めるならば、重みを付けます。3点見積法として知られている式は本命シナリオに4を掛けて平均を求めます。
- a = もっとも楽観的な見積もり
- m = もっとも可能性の高そうな見積もり
- b = もっとも悲観的な見積もり
- (a + 4m + b) / 6 を計算する
3点見積法 – *ListFreak
仕事Aを上記の式で見積もり直すと、(30 + 4*60 + 120) / 6 = 65 [時間] となります。
先の例では、悲観シナリオが90時間であれば、mの係数に関わらず見積もりは60時間になります。
期待リターンは同じでもリスクは違う
最善のケースと最悪のケースを想定するという心得の重要性をあらためて気づかせてくれたのが、野口 真人『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社、2016年)に載っていた小クイズでした。すこし切り詰めて引用します。
赤か黒(確率50%)に賭けるルーレットゲームが2種類ある。プレイ料金は1回40万円。賞金は次の通り。どちらを選ぶか。
A. 当たり100万円/はずれ0円(期待リターン50万円)
B. 当たり75万円/はずれ25万円(期待リターン50万円)
反射的に、期待リターンが同じならどちらでもいいかな……と感じてしまいましたが、これは同じ賭けではありません。期待リターンは同じでも、Aのほうが結果のばらつきが大きいので、大勝ち/大負けする可能性はAのほうが高くなります。つまりリスクが高いということです。
それぞれのゲームのリスク(リターンのばらつき具合)は標準偏差で表現でき、それは表計算ソフトの関数で簡単に計算できます。ゲームAの場合、リターンは150%(当たり)か -100%(外れ)なので、標準偏差を求めると125%。ゲームBの場合は62.5%です。
著者はリスクを見落としがちな点について、このように述べています。
『僕たちは「同じリスクなら、リターンは高い方がいい」という感覚はすでに持っている。しかし、「同じリターンなら、リスクが低いほうがいい」という真実には、直感的にたどりつきづらいのだ。』
選択によって重視する対象は違います。見積もりでは正確さを、投資ではリターンとリスクのバランスを、それぞれ重視すべきです。いずれにせよ、最善、最悪、そしてばらつきをイメージしてから選択に向かうクセをつけたいと感じました。