「書く」機会の増加
幸か不幸か、われわれは未曾有の「大量に書く」時代に生きています。いつからどれくらい増えたのか定量的に測ることは難しいとしても、ネット以前と以後では、仕事や生活の中で「書く」量が増えたことはまず間違いないでしょう。
量の増加だけでなく、質の多様化も見逃せない変化です。書くといえば手紙(コミュニケーション)か日記(内省)でしたが、いまブログ・ミニブログ・ソーシャルブックマークなどで飛び交っているテキストは、そのどちらでもありません。というか、そのどちらでもあります。言ってみれば「人に聞かれてもいいひとりごと」で、内省のまま終わるかもしれないし、コミュニケーションに発展するかもしれません。
ここまで書く機会が多いと、自然と「書く」という行為そのものに興味が出てきます(よね)。
癒(いや)しとしてのライティング
そこで「書く」をテーマにした本を当てずっぽうに読んでいます。最近手にしたのは、『こころのライティング』という本。「書いていやす回復ワークブック」という副題がついています。著者はトラウマの研究者としてexpressive writing、すなわち「こころの奥底にある感情や考えを余すところなく吐き出して書くこと」(「訳者あとがき」より引用)に注目しています。著者によれば、そのメカニズムは明らかでないものの、ライティングがトラウマを癒す効果については複数の研究で認められているとのこと。
わたし自身は治癒が必要なトラウマを負っているわけではありませんので、この本の通りに書くテーマを持っていません。しかし、意志決定に応用できるかもしれないという興味を持ちました。
決断を前にした迷いや決断した後の後悔は、トラウマではありませんがこころの動揺ではあります。そして「決めるために書く」方法もたくさん提唱されています。たとえばベンジャミン・フランクリンの功罪表もそうですし、起-動線の自分ナビも書くことで自分に考えさせるタイプのプログラムです。
この本に書かれていた、こころのライティングのルールを引用します(小見出しを大幅にふくらませましたので、「引用」とは言いがたくなってしまいましたが……)。
「こころのライティング」のルール
・1日20分、4日続けて書く
・個人的に重要な話題について書く。毎日同じでも違ってもよい
・書き始めたら筆を止めない
・自分自身のために(人に見せない文章として)書く
・動揺が大きくなりすぎたと感じたら、それについては書かない
・書いた後の自分の感情を振り返り、それもメモしておく
本では、「ワークブック」という副題の通り、4日間で何をどう書くかについて、具体的なプログラムが紹介されています。「書く」ことの効果については今後とも研究し、皆さんに紹介していきたいと思います。