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コンセプトノート

480. 探る、聴く、乗る、導く

打診、傾聴、協調、主導

人は社会や人間関係の中で特定の「役割」を演じている。これは広く共有されている発想です(参考:ウィキペディア)。個人の特性によって人間関係の中で自然と役割が定まる(例:あの人はいじられ役だ)場合もあれば、意識して特定の役を演じる(例:あの場では、あえて憎まれ役を演じた)場合もあります。
先日読んだ『正直シグナル―― 非言語コミュニケーションの科学』では、主な社会的役割を4つ挙げていました。

  • 打診(Exploring) … 可能性を探る、関心を伝える
  • 積極的傾聴(Active Listening) … オープンに情報を求める
  • 協調(Teaming) … 共感する、支援する
  • 主導(Leading) … 主張する、主導する

社会的役割(ペントランド)*ListFreak

なるほど、主要な社会的役割というだけあって、どれも人間関係に欠かせないように思えます。すこし詳しく吟味する前に、言葉の意味を補っておきます。そのまま引用できる箇所がなかったので、わたしの解釈が含まれていることをおことわりしておきます。

「打診」の原語である”Exploring”は、探検する・探究するという意味です。したがって「打診」役は、わかっている事実は何か、それについて各人はどんな関心をもっているかを場に問いかけ、共有します。
「積極的傾聴」役は、自分の意見を脇に置き、話し手に関心を示すことによって話し手の意見を引き出します。
「協調」役は、話し手の感情への共感・意見への支援を表明します。
「主導」役は、自分の意見を主張し、場をリードします。

会議のシーンで、これらの役がどのように演じられているかを考えてみます。

まず、一人一役ではありません。メンバーの力関係がフラットであれば、互いの役がめまぐるしく入れ替わるでしょう。ある人が「主導」役に立って解決策を提案するとき、他の人は「傾聴」役に回ります。賛成の人は「協調」役として支援を示すでしょう。賛成できない人は新たな可能性の「打診」役や別の意見の「主導」役を演じるはずです。沈黙によって消極的な「協調」役を演じてみせる人もいるかもしれません。

さらに、一人は複数の役を組み合わせても演じます。場の関心を探るために仮の提案をする人は「打診」と「主張」をしています。誰かの意見に強くうなずいてみせる人は「積極的傾聴」と「協調」をしています。
これらの役割と、うまくいった会議やいかなかった会議の思い出を組み合わせて考えてみると、「一人一人がこの4役を演じる」ことが、健全な合意形成のために必要だと言えそうです。

たとえば「主導」ばかりの上司と「傾聴」「協調」しかしない部下が会議を開いても、行われるのは議論ではなく通達でしょう。話を広げるけれど結論に向かわない人は、「打診」はしていても「主導」をしていません。「傾聴」しない人は、ただの言いっ放しです。

結果に意識を向け、あとは意識下にまかせる

こういった役割を演じている人は、発している言葉とは別に、役割に応じた非言語のシグナルを発しています。シグナルとは、たとえば声の強さの変化であったり、相手の仕草の真似(ミミクリ)といったことです。われわれは意識下でそういった非言語シグナルをやりとりしながら人間関係を作っています。それが、『正直シグナル』の著者からのメッセージでした。

たとえば、人は「協調」役を演じているときには、ミミクリが増えます。「主導」役ではミミクリは減り、諸活動のレベルが高まります。
ということは、社会的役割と非言語シグナルの対応を整理し、シグナルを上手に発する練習をすることで、われわれは人間関係の構築能力を高められることになります。
では、たとえば会議の場で「協調」上手になるためには、ミミクリの練習をし、無意識のうちにできるように鍛え上げるべきなのでしょうか。

それも一つの方向ではあります(実現できるかどうかわかりませんが)。しかし、もしある人が生活や趣味の場を含めた社会生活の中でふつうに人間関係を築けているならば、その人には、十分な非言語シグナルの送信能力がすでに備わっているはずです。

おそらくするべきは、会議中に「協調」役を演じる機会を増やす態度で望むことでしょう。その態度に嘘がなければ、われわれの優れた非言語コミュニケーション能力がたちまちミミクリのようなシグナルを発し、相手もそれを受け取るはずです。
ということで、4つの役割を会議の場で思い出せるよう、少々意訳しつつ動詞に置き換えてみます。

探る(さぐる)、聴く(きく)、乗る(のる)、導く(みちびく)。最初の一文字を取ると「さ・き・の・み」です。会議に参加するときに、メンバーがこれら「さ・き・の・み」の役割をどのようにこなし合っているかに注意を向けてみたいと思います。