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コンセプトノート

214. 大きな、困難な、向こう見ずな、目標(BHAG)

組織だけでなく個人においても重要な”BHAG”

米国の経営学者ジム・コリンズ氏とジェリー・ポラス氏は、長期的に成長を維持している企業があるタイプの「目標」を掲げていることを発見しました。とてつもなく大胆で困難だが、同時に明確で魅力的でもあって、その実現のために組織が一丸となれるような、長期的な目標。彼らは著書『ビジョナリー・カンパニー』で、それをBHAG(Big Hairy Audacious Goal)と命名しました。
BHAGは、組織を一つにまとめるために掲げるたいまつのようなものと考えられています。しかしポラス氏は新著『ビジョナリー・ピープル』で、長期的に成功している人の多くもまたBHAGを掲げていることを発見しています。

ビジョナリーな人の目標は、彼ら自身がビジョンを構築し、探し求める生き方を実現するための力そのものになっている。(p265)

では、「ビジョナリーな人」はどのような目標を立てていたのでしょうか。

ビジョナリー・ピープルの仕事観

 ビジョナリーな人の中で、自分の仕事に、使命や天職、大義、あるいは高邁な目的といった恐れ多いレッテルを貼った人はほとんどいない。(p274)

ちょっと意外でした。というのは、この本でいう「ビジョナリーな人」には、ネルソン・マンデラ氏やスティーブ・ジョブス氏など、「大義」や「天職」といった言葉がふさわしい人が多いからです。

大所高所に立って目標を定めたのではないとすると、どのように定めたのか。非常に個人的な視点で、というのが著者の発見でした。

自分にとって大きな意味のあることだけを追いかけようとする。つまり大好きか、あるいはとても無視しておけないもの、言い換えれば、あまりにも大切で、周りの人たちの意見に従ってではなく、そうした意見に逆らってでも、打ち込むだけの意欲がわいてくるような、そんな生きがいを追いかけるのだ。(p274)

「社会起業家」の見分け方

このくだりを読んで、社会起業向けのビジネスプランコンテスト「スタイル」を思い出しました(ほんの少しですが、応募者の励まし役を務めました)。社会起業とは、社会的な課題をビジネスの手法で解決することを目的とした起業で、まさに「高邁な目的」に立っています。取り組むテーマが社会的な問題であるがゆえに、事業プランには「共感性」が求められます。

3回ほどお手伝いをさせていただいて、共感を呼ぶプランには明らかな傾向があることを学びました。それは課題の個人性とでも呼べるもので、『なぜ他の誰でもない「自分」が、他でもない「その課題」に取り組むのか』が分かること。社会問題を解決しようという文脈の中では、一個人の経験など部分的で小さなものに過ぎないはず。しかし不思議なことに、個人的な体験や想いに根ざしていないプランは、「事業性」を評価されることはあっても、共感を呼ぶことはまずありません。

適正な自己中心性

個人の目標ですから、もちろん自分で勝手に決めていいわけです。しかし、自分の目標を他者に示し、巻き込もう・共感してもらおうとするときにも、そこに個人的な想いがなければならない。だとすると、いずれにせよ必要なのは個人的な想いということになります。つまり、「社会が今これを求めている」ではなく「自分にとってこれが大事」というタイプの意義です。

まずは「ありたい自分」から。それは結果的に「ありたい社会」へとつながっていきます。英国の経営学者チャールズ・ハンディ氏は、1998年に既に「適正な自己中心性」が資本主義の行き過ぎを矯めてくれると論じています。

(参考)
もっといい会社、もっといい人生―新しい資本主義社会のかたち
チャレンジャーの魅力