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コンセプトノート

485. 変化には時間がかかる、順序がある、後始末がいる

ハーバード大学のジョン・J・ガバロ教授は、新任の経営幹部17人の引き継ぎプロセスを調査し、組織変更に一定のリズムがあることを見い出しました。人材コンサルタントのC・フェルナンデス・アラオスは、著書『人選力』でこの研究を次のように紹介しています。

『(新任マネジャーが)新任務を遂行するプロセスは“三つの波”と呼ばれる、きわめて予想可能な一連の学習と行動の段階から成り立っている。』

  • 【第1の波:定着】 ― 初期診断の後、基本的な是正措置の範囲で一連の変革を実施する(3)
  • (浸透) ― 組織について知識を深め、あまり変革を進めない(9)
  • 【第2の波:再構築】 ― より大きい、戦略的な変革を実施する(18)
  • 【第3の波:整理統合】 ― 再構築期の結果を踏まえ、小規模な変革を実施する(30)

新任マネジャーが組織を変える「3つの波」*ListFreak

各項目の最後の数字は、新マネジャーが任命されてからの月数を示しています。波の大きさを比べると、定着:再構築:整理統合=4:5:2でした。

いろいろなことを考えさせてくれる調査結果です。いくつかピックアップしてみます。

変化には時間がかかる

この調査は、企業が『新しく入社する経営幹部をいち早く新組織に融合し、本来のパフォーマンスを発揮させるための一連の活動』(アラオス氏はこれをインテグレーションと呼んでいます)を成し遂げるまでには、3年間かかるのが普通だと言っています。

いかにも長いと感じてしまいます。しかし、これが平均値だと覚悟して臨んだほうが失敗が少なそうです。有能なマネジャーを採用しても「組織が変わるには3年かかる」のが平均であり、それを縮めたければ、特別な努力を払う必要があるということです。

変革が新任のマネジャーでなく既存メンバーによって行われた場合はどうか。その比較調査は本書にはありませんでしたが、3年以上かかると考えるべきでしょうね。もしメンバーを変えずに楽に自己改革できるのであれば、新任の経営幹部を呼んできたりしないわけです。

変化には順序がある

なぜ、それほど時間がかかるのか。それは、変化にはスキップできないステップがあるからでしょう。

上の「3つの波」でいえば、第1の波での変革はクイックウィンと呼ばれる類の変革です。簡単に取り組めて成果の見込める変化を選んで実施します。これはコンサルタントなど社外の人間がリードしてもできることです。

そのあと第2の波が来るまでに、実に15か月もの時間がかかっています。新任マネジャーが組織になじむには、まるまる1年度を一緒に過ごすことが必要ということを示唆しています。

この1年間の間に、何が起きるのか。「解凍・変化・冷凍」というノートで引用したリストを再掲します。

  • 【解凍】:その変化が不可欠であることを認識して、旧来の信念や実践を取りのぞいて変化のための準備を整える過程
  • 【変化】:変化が生じる過程。以前のものの見方やシステムが不要になることで惹きおこされる混乱や苦しみがともなうことがある
  • 【冷凍】:新たなものの見方が結晶する過程。新しい枠組みのなかでの快適さと恒常性の感覚がふたたびあらわれてくる

レヴィンの変化モデル*ListFreak

1年間は、組織が来たるべき変化に向けて自らを【解凍】するための時間なのでしょう。大きな変革をめざすほど、より大きく固い信念を解凍しなければなりません。

変化には後始末が必要である

「第3の波」は注目に値します。第2の波の12か月後、回数は少ないながら、整理統合のための変革が行われています。たまたま起きることではなく、第3の波として統計的に識別できるくらい頻繁に観察されている事象なのです。

大きな変化のちょうど1年後というタイミングに納得感がありますね。たしかに、ある変革が定着していくに際しては、「ちょっとやり過ぎた」「ショック療法としては十分な効果が上がった」「実際にやってみて、もっとよいやり方が見つかった」などなどの理由で、当事者の手によって微調整が入ることが多いように思います。

上記のレヴィンのリストでも(再)冷凍のステップがあります。変革というと「クイックウィンで勢いをつけて本丸へ……」的な流れだけをイメージしがちなので「変化には後始末が必要」という事実をよく覚えておきたいと思います。

後始末にこじつけて、もうひとつだけリストを紹介します。配偶者が神職さんという知人から教えてもらいました。このノートで扱ったような信念の変化ではないにせよ、お祭りは非日常への変化です。日常に戻るための後始末のステップがちゃんと識別されているところに面白みを感じます。

  • 【潔斎】(けっさい)心身の清浄につとめる
  • 【祭り】神さまをお招きして饗応(きょうおう)のご接待をする
  • 【直会】(なおらい)御神酒(おみき)や神饌(しんせん)を祭りに関わった者たちで共にいただく

祭事の3ステップ(神道)*ListFreak