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コンセプトノート

584. 場に立つ人のための、気持ちのチェックリスト

失敗は忘れた頃に……

ファシリテーターとして、ここ10年間で最大級の失敗をしました。

ある組織の、次世代の経営者を育成するプログラムの一環として1日場をお預かりしました。参加者とお会いするのは初めてだったのですが、個人的に思い入れのある組織だったので、知らず知らずのうちに「次世代のリーダーたるもの……」的な説教臭が混じっていたのだと思います。皆さんが礼儀正しく参加してくださったおかげでそのことに気づけず、あとからアンケートに厳しい評価が混じっているのを知って、ようやく空回りに気づいたというていたらくでした。

振り返ってみて、慢心があったことは否めません。毎回、場に立つ前に唱えているいくつかの三か条も、その日はさぼっていました。自分の(ひとりよがりな)思いを伝えるのに懸命になり、場の感情を読むことを怠っていました。

ファシリテーションのための「気持ちのチェックリスト」

特にわれながら改善の必要性を感じたのが、参加者からの相談や質問に対する回答です。きちんと耳を傾ける、答えを押しつけずに考えを促すといった訓練は積めているものと自負していましたが、今回は場に立つ時点で謙虚な気持ちを失っていました。

そんな気持ちで読んだせいか、交渉の本に参考になるリストを見つけました。交渉とファシリテーションは違う仕事ですが、対人関係が重要という点では共通点も多いと思います。

『真剣に交渉に臨む人は、準備を怠らない。(略)次に挙げる六つのストレートな質問は、感情的準備が整っているか自己チェックするのに役立つ。』

  1. 交渉を始めるとき、どんな気分でいたいか?
  2. その理由は?
  3. 理想的な精神状態で交渉に臨むために、事前にできることは何か?
  4. 交渉の最中に冷静さを失うようなことがあるとすれば、それは何か?
  5. 交渉の最中に冷静さを取り戻すために何ができるか?
  6. 交渉が終わったとき、どんな気分になりたいか?

交渉前の「気持ちのチェックリスト」*ListFreak

交渉をファシリテーションに読み替えて今度使ってみようと思いつつ、これではまだ十分でないとも感じました。これらの主語はすべて「自分」だからです。もっと相手の、あるいは場全体の感情に目を向けられるようなリストが欲しいので、上記を参考に自作することにしました。

  • 【終了】どんな雰囲気で場を終わりにしたいか?
  • 【過程】場が乱れるとすれば、それはなぜか?場を整えるために何ができるか?
  • 【開始】理想的な精神状態で場に臨むために、事前にできることは何か?

ファシリテーションのための「気持ちのチェックリスト」*ListFreak

終了時点から逆算したほうが目的を見失いづらいかなと思い、オリジナルとは順序を逆にしてみました。また、現場で思い出せるように3か条に圧縮してあります。第2項目に2つの問いが入っているので厳密には3か条とは言いづらいですが、思い出しやすさを優先させました。

相談・質問に応えるステップ

心の準備ができたとして、1つ1つの質問にどう答えるかも、しっかりイメージしておきたく思いました。これもリスト化してみます。

  • 【理解する】相手の言動を正確に理解したか?それは相手によって確認されたか?
  • 【意を汲む】その言動の背後には、どのような感情・意図・信念があるのか?
  • 【案を渡す】相手自身が答えを導くために、どのような情報提供や提案ができるか?

相談・質問に応えるステップ*ListFreak

「理解する、意を汲む、案を渡す」で一つの会話というイメージです。以下、各ステップの内容をまとめます。

まずは【理解する】。言葉だけでなく表情・しぐさ・声色を含めてよく観察・傾聴しようという思いを込めて「言動」としました。ただ、その理解も独りよがりになってしまってはいけません。言い直したり要約したりして、自分の理解を相手に確かめてもらうステップも意識したいと思います。

言動には理由があります。相手をしてその言動に至らしめた意図・欲求・信念があり、それは表に現れるものではありません(参考:『誰もが「私は有能か?善良か?愛されているか?」と自問している』)。そこで【意を汲む】必要があります。

たとえばスキルトレーニングの場で、参加者が「それは現場では実践が難しいと思う」と言うとき、その根底には「自分の仕事の複雑さをファシリテーターや仲間に理解してほしい」という欲求があることが多いと思います。その欲求に応える、つまり共感を示すことなしには、どのようなアドバイスも質問者の耳には届かないでしょう。耳にまでは届いても、心には届かないでしょう。

その隠れた意図や欲求を言葉にして答えるのがよい場合もあれば、そうしないほうがよい場合もあります。たとえば細かい論点にこだわっているかのように思えるコメントの意図を適切に汲めて、「長期的な影響までも考慮されたうえでのご懸念と理解しました」などと補足できれば、よくわかってくれたと感謝されるかもしれません。一方、全段落のケースでもし「自分の仕事の複雑さを理解してほしいのですね」などと言えば、その読みが合っていたとしても、否定され反感を抱かれるのは間違いないでしょう。

そのうえで、なんらかのアドバイス・コメントを提示します。これに【案を渡す】と命名した理由を説明します。

いまわたしが想定しているのは講師が参加者から質問を受けたり、上司が部下から相談を受けるようなケースです。このように相手がある程度自分を権威と見立てて質問してきてくれる場合には、「傾聴」や「質問」だけですませるわけにはいきません。とはいえ「回答」もできません。単に知識を補充する質問を除けば、結局は質問者自身が自分の言葉で答えを作らないかぎり、その人の現場で役立つ知恵にはならないからです。

そこで「わたしがあなたの立場だったら~」「よく似た例を聞いた(経験した)ことがあります。そのときは~」など、相手が自分で考えて決めるための参考になりそうな情報を提供するというスタンスで、アイディアを共有したり、アドバイスしたり、コメントしたりしたいと考えています。「提案する」ではすこし強いので「アイディアや参考情報を提供する」という意味合いを込めて【案を渡す】としました。

このように振り返ってみると、経営幹部の候補生としてこれから準備を始めようという参加者の意も汲まず、案を渡すどころか意見を押しつけていたと言わざるを得ません。これらのリストを携えて出直したいと思います。