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コンセプトノート

341. 執着をしないとは、すべてをなくすことではなく

世界の高峰に単独・無酸素での登頂を続ける、登山家の栗城史多さんの著書を読みました。

 登山をしているときの、大きな課題がある。
 それは「執着を捨てる」ということだ。
 今までの話と矛盾しているようだが、誤解しないでほしい。夢を実現させたいと思うことはすばらしい。だが山に入ってからは、その思いをいかになくすかが重要なのだ。「自分の力で登り、夢をかなえるぞ」という強い思いには、必ず限界がやってくる。
―栗城 史多『一歩を越える勇気』(サンマーク出版 、2009年)

「今までの話」とは、著者が夢を公言し、実現してきたという話です。前の章には登山のための資金集めの苦労が書かれており、「夢をかなえる方法」「夢を志に変える」などなど、熱い言葉が連なっていました。まさに「思考は現実化する」の世界です(といいつつ、未読なのですが……)。ところが本番である登山の最中は、そういった強い目標達成意識を持たないようにしているとのこと。自然が相手なので、自分ではコントロールできないファクターがあまりにも多い。目標(登頂)に執着すると、死につながりかねない。要約すると、そういうメッセージだと理解しました。

では、執着しないとはどういうことか。ポジティブであろうとも、ネガティブであろうともしない。かといって、何も感じないようにするのではない。「これでいいのだ」と、すべてを受け入れることだ。と言っています。

とりわけ「執着をしないとは、すべてをなくすことではなく、すべてに満たされることである」という文にはハッとさせられました。最善の結果に向けて努力をする。しかし実際に生じた結果については、そういった努力とは切り離して、「これでいいのだ」と受け入れる。そういうことでしょうか。