問題を予兆レベルで捉える
先日、マネジャー向けセッションのファシリテーターを務めたときの話です。
職務分担のあり方を検討するため、社内の方が作成された架空のトラブル事例への対応をシミュレーションしてもらいました。生じた問題に対して、どの職位の人が、何を、どう進めるか。事例ごとにフローを描いていきます。
事前の準備段階では、線引き(誰がどこまでを担うか)の確認が中心になると予想していました。というのも、事例は違えど、事実の確認、原因の追求、対策の実行、効果の検証といった大まかなステップは似通ったものになるはずだからです。
当日は、多くのマネジャーがトラブルの対応だけでなく予防にも目を配ってくれました。「予防が重要」と後知恵で言うのは簡単ですが、シミュレーションとはいえリアルタイムで思いつくのはなかなか難しいことです。
そもそも、問題を生じさせない
さらに、「部下が周囲に辞めたいと言っているという噂を聞いた」という事例 ――トラブルではないものの、マネジャーが対処すべき問題として用意された事例の一つ―― で、思慮深いマネジャーが議論を面白い方向に誘導してくれました。
予防的に考えれば、「不満の予兆に気づくにはどうするか?」という話になるところを、彼は一歩踏み込んで「そもそも不満を持たないようにできないのか?」という問いを立ててくれました。
もちろんゼロにはできません。しかし、仕事の割り当てが適切か、割り当ては適切としても、その仕事に意欲を持って取り組めるような支援ができているか、そういったところまで遡って自分たちの仕事を考えてくれました。
起こり得る問題を予想する
そんなことがあったせいか、コンフリクト(対人関係における対立・葛藤)のライフサイクルを定義した文章に注意を引かれました。
- 【第1段階 潜在的対立】 コミュニケーション障害・構造的要因・個人的変数(価値判断の違い)などにより、コンフリクトを生み出す条件が生じる
- 【第2段階 認知と個人化】 少なくとも一方の当事者がコンフリクトを認知し、不安・緊張・不満・敵意を感じる
- 【第3段階 行動】 意図的な干渉や闘争が起き、その処理(競争・協調・回避・適応・妥協)が開始される
- 【第4段階 結果】 意思決定の質が向上するなどの生産的な結果、あるいは機能低下などの非生産的な結果が生じる
コンフリクトのプロセス – *ListFreak
第1段階として、先行条件の存在が挙げられています。コンフリクトが生じる第1ステップは「その種があること」だというわけです。
解説を読んでみると、コンフリクトの種となり得るのは、コミュニケーション(言葉の定義の違いなど)、構造(報酬体系の不備や利害の不一致など)、個人的変数(個人による価値判断の違いなど)とあります。
どれも、なくすことは事実上できないものばかりです。人と人が一緒に何かをする以上、コンフリクトが起きるのは避けられないということでしょう。
この、先行条件→認知と個人化→顕在化(コンフリクト行動)というステップは、一般的な問題に敷衍できそうです。
われわれが解決を図る問題の多くにも、先行条件は常に存在しています。ということは、先行条件をよく理解すれば、いま問題が起きていなくても、これから起き得る問題を予想できることになります。問題解決でも問題発見でもない、問題予想のスキルと言えましょうか。
問題が予想できれば、予防策を考えたり、予防できなくても対応策を考えたり、場合によっては意図的に問題を起こしたりできます。定期的にオープンな対話の機会を設けるマネジャーは「ガス抜きがうまい」などと言われますが、コンフリクトの種は無くせないことを知っているからこそ、こまめに対立を表出させることで大きな感情的対立が生じるのを防ごうとしているのでしょう。