本ができあがるまでには多くの人が関与します。それらのコーディネートをしてくれる編集者のおかげで、著者はラクができます。『クリエイティブ・チョイス』は、日本実業出版社の川上 聡さんが編集してくださいました。
しかし、せっかく一緒に仕事をした方々と顔を合わせずじまいなのは残念。わたしが勝手に「チーム・クリチョイ」と呼んでいた面々、すなわちわたし、川上さん、イラストの古賀 重範さん、装丁の長坂 勇司さんの4人で会いたい。ただ会うだけではもったいないので、出版記念対談という体裁にして記事にしてもらえないだろうか。そんな図々しいことを思いついて、出版の2週間ほど前に実現にこぎ着けました。
(2009/6/5に、誠 Biz.IDにて記事化されました)
残念ながら長坂さんは来られなかったものの、古賀さんとはお会いすることができました。そこで初めて古賀さんの創造的な選択をおうかがいしたのです。
腕をケガしたのに、腕を使う仕事を選ぶ
古賀さんは社会に出て5年目くらいのときに、事故で利き腕が使えなくなってしまいました。イラストレータという職業を志したのは、その事故のあとだったとのこと。
利き腕をケガしたあとで、敢えて「描く」仕事を選んだ?なんとコメントしてよいか一瞬分からなくなってしまいました。利き腕で描いたって難しいものを、反対の手で描いてメシを食おうとは!わざわざ不利な勝負を挑んだように感じました。わたしなら、ケガをするまでに積み上げてきたものをなるべく活かそう、と考えるような気がします。
そこで、もうすこし詳しくお話をおうかがいしました。子どもの頃から絵を描くことは好きだったし、仕事も製図関係だったそうです。しかし仕事としてイラストを描いたことはなかった。それがケガをして、やはり製図の仕事では難しいなと思ったときに、雑誌の表紙に載っていた安西水丸さんのイラストを見た。これなら自分にもできると思った。
「いま考えると無謀きわまりないですが……(笑)」
とおっしゃっていましたが、とにかくそう思った。そこで安西氏が講師を務めるスクールに通い、本格的にイラストを習いはじめた。
ケガをしてから15年。もちろんひとかたならぬ苦労はあったと思いますが、古賀さんはイラストレータの仕事を続けられています。その実力は『クリエイティブ・チョイス』を読んでくださった皆さんなら、すでに目にされた通りです。
あるがまま戦略
たとえば、速くきれいに仕上げるだけの勝負では、やはり両腕を使う人にかなわない。何より、今までの自分に勝てない。そんな悔しい思いをするかもしれません。
しかし、いまの自分の持ち味がそのまま価値になる舞台もあります。イラストはそんな舞台のひとつではないでしょうか。
利き腕で描いていたら、ウマい人の模倣で終わってしまっていたかもしれないところが、逆の手で描くと決めたことで、オリジナリティを発揮する機会になった。『クリエイティブ・チョイス』の言葉でいえば、企まざる「あるがまま戦略」をとった。
もちろん、ふだん利き腕で描いている人が意図的に逆の手でイラストを描くことはできるでしょう。しかし、それは利き腕を使えない人が逆の手で精魂込めて描くものとは、自ずから違ってくるのではないでしょうか。
仮に古賀さんがケガをなさらなかったとして、オリジナリティを出すために逆の手でイラストを描くことを思いついたとしましょう。しかし、同じ手になる絵だとしても、そのような作為のもとで描かれた絵は、いまの古賀さんの絵に及ばないのではないかと思います。
>cafe513(古賀さんのホームページ)