同じ会社に2回応募するという勇気
Aさんは社会人6年目の20歳代。一見、線の細い印象を受ける女性です。全く違う職種へのキャリア・チェンジ(ただし業界は同じ)を果たされた経緯をおうかがいしました。
実は今回の転職の1年前にも同じ会社に応募したのだそうです。社長との面接の結果は不採用。ところがまた応募して、また同じ社長の面接を受けて、今度は成功。
応募した職種を変えたわけでもありません。Aさんの(その職種の)経験が増えたわけでもありません。1年前と同じく未経験な職種への応募でした。一回の社長面接でほぼ決まる規模の会社ですから、社内の別ルートを探るというようなワザも使えません。
彼女によると、今回は転職したい理由がはっきり語れたとのこと。
1年前は、現職へのネガティブな気持ちがでてしまったり、なぜ転職なのか、なぜその会社なのかという点が自分でも上手く語れなかった。
しかし1年経って、自分のこういう経験やこういう志向を活かしたいという気持ちがはっきり表現できるようになってきた。こういうことに挑戦したいし、それを他ならぬ御社でやりたいということがきちんと言えた。それがよかったのではないか。そんなことをおっしゃっていました。
その話をおうかがいしながら、しかし、わたしが最も感嘆したのは、1年前に不採用となった会社にもう一度応募したという勇気です。就職・転職で何社も面接を重ねることはよくありますが、自分を不採用にした社長にもう一度面接を申し込むというケースはなかなか聞きません。それも、何社も回った挙げ句に再挑戦というようなことではなく、1年前も1年後もその会社に真っ先に応募したとのこと。
「なぜその会社にこだわったのですか?」
「やっていることが一番面白そうなので…」
「よくもう一度応募する気になりましたね?」
「募集しているのだから、話は聞いてもらえるだろうと…」
淡々としたものです。
勇気というスキル
Aさんはご自分なりに成功要因を分析され、転職理由を明確に述べたことを挙げておられました。
しかし本当の採用理由は分かりません。もしかしたら会社の業績見通しが良くなり、採用の基準を緩くしたのかもしれませんし、一度断ってもめげなかったというその根性を買ったのかもしれません。
客観的に考えてみれば、経験も知識も無いままで年齢だけが1つ上がったわけです。能力だって飛躍的にアップするようなことはないでしょうから、いま書いた「もしかしたら」という理由の方が実際の採用理由である可能性も高いでしょう。
ではAさんは単にラッキーだったのか。
決してそうではありません。
Aさんは再挑戦して、望む結果を勝ち得ました。
勇気というスキルを発揮したのです。
この成功体験は、Aさんのこれからのチャレンジをも支えていくでしょう。
Aさんにとっては、今回の転職はこのうえないスキルアップのトレーニングでもありました。
※「勇気」のようなものはスキルでなくコンピテンシーと呼ぶべきというような定義の話は、今回は措いています