先日企業合併を成し遂げたIT業界のポータル最大手、アイティメディア。その立役者である藤村厚夫さん(現代表取締役会長)が、起業から5年間の社長生活を振り返ってこんなコラムを書かれていました:
「履歴書」に書くべき項目としては、この5年間まったくの無風・不変に終始してきましたが、その間を振り返ると、「業務経歴書」という物語にはたくさんのことが書けそうな気がしています。自分の生涯においても最も波瀾万丈な“無風”期間であったということになるかもしれません。
「土俵の真中で四つに組んで動かない力士は、外観上至極(しごく)平和さうに見える。」
と書いたのは、大正5年の夏目漱石でした(「点頭録」)。
「@IT自分戦略研究所 Weekly」2005/3/31号より)
この相撲の例えは絶妙ですね。企業合併というような「イベント」は、いわばダイジェスト版で見る「勝負の瞬間」。しかしそこに至るまでには、もちろん、土俵入りからの長いプロセスがあるわけです。
淡々と塩を撒いて四股を踏みながら、しかし
段々と体が紅潮してきたり、目が鋭くなってきたり。そして
「外観上至極(しごく)平和さうに見える」、
「土俵の真中で四つに組んで動かない」期間を経て、
ある瞬間に勝負が決まる。
一連のプロセスのどこかに、勝敗を分けた原因が、勝った側から見れば「勝機」が、あったわけです。しかしそれはいつ、どういう形で訪れるかは分からない。だから準備から気を抜かない。
(表面上の)無風期間からの飛躍という話題を論じたのは『ビジョナリー・カンパニー 2 − 飛躍の法則』。これは、書評に挙げたように『10〜20年間も市場平均以下だったのに、ある年を境に15年以上市場平均の3倍の成績を挙げ続けるという「飛躍」を遂げた企業を抽出し、その成功要因を探っ』た本です。
後から成長曲線を見れば、成功企業の飛躍の始まりは明確に指摘できます。しかし内部にいた人に振り返ってもらっても、その転換点の年に何か特別なことをした、特別なことが起きたという記憶はなかった。そんなくだりがありました。
藤村さんのコラムから続けて引用。
見るからに波瀾万丈、絵に描いたようなドラマティックな人生も世の中にはあるようですが、往々にして人生上の激動は個人的に、かつ人目からは見えにくい形でやってくるのではないでしょうか。