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コンセプトノート

283. 三兎を追う者は猪を得る(2)

三兎を追う者は猪を得る」の続きです。

「長老になった彼が若者の相談に応じる形で、自分が伝説の狩人となった理由を語ります」と書きましたが、物語形式はいいかげんわざとらしいので止めて、若者が得た教訓だけをまとめておきたいと思います。

1. 考えもなしに「できることから始める」をしない

若者は、二兎を追って失敗した仲間を見て、安直な教訓を引き出すことをしませんでした。

我々が「できることからひとつずつ」と言う場合には、二種類あります。一つは、目的を見据えた上で、もしかしたら目的の大きさに圧倒されるかもしれませんが、一歩ずつ進んでいこうという場合。もう一つは、単に考えるのが面倒なので、目の前にある「できそうなこと」をやっているに過ぎない場合です。

2. 敢えて高望みする

若者は、体力に優れた仲間が二兎を追って失敗したのを知りつつ、それでもなお三兎を追いたいと考えました。そして「追いかける」から「待ちかまえる」へという発想の転換に成功しました。

目的が違えば、目的をかなえるための最適な手段も違ってきます。三兎を得る方法は、走って二兎を追いかけるパラダイムの延長線上にはありません。そしてもしかしたら、三兎を得る方が簡単かもしれないのです。

われわれの生活の中では、しばしば「もう少し高望みしてさえいれば、ずっと簡単に望みがかなったのに」という逆説が生じます。すこし大胆に、すこしわがままに、高望みをしてみると、意外な近道が現れるかもしれません。

3. 試して学ぶ

若者は、自分で試しもせずに「罠をしかければもっとたくさんの兎が捕まえられるぞ!」と仲間を誘うことはしませんでした。大がかりな計画を立てることもしませんでした。

1番目の教訓と矛盾するように見えますが、仮説を検証するためには、「よい試行錯誤」が必要です。「よい試行錯誤」とは、できるだけ小さな試行で、できるだけ重要な仮説を確かめようとする態度に基づいた、試行錯誤です。

4. 目的を問い直す

若者は、「高望み」による発想の転換で手に入れた「罠」という手段を、もう一度目的に照らして評価してみました。兎をたくさん捕るという表面的な目的でなく、できるだけ根源に遡った目的を考え、それに照らして評価してみました。

高望みすることで新しい手段が見えてくるように、新しい手段は新しい目的・より高い目的を開拓できる可能性もあります。我々は常に目的と手段の間を往復しながら前に進んでいく必要があります。

5. 感謝する

若者は、「追いかける」パラダイムに固執した仲間がいたからこそ、挑戦する猶予を手に入れられていたことを理解していました。だから自分の成果を仲間と共有し、コミュニティに還元しました。

リスクを取って挑戦し、よりよい手段を手に入れた人は、いままでの手段にこだわる人を、頭が固い・視野が狭いなど言って見くだしがちです。しかしよく振り返ってみれば、誰かがリスクを補ってくれていたり、リスクを取る余裕を与えてくれていたことに気がつくことでしょう。