病気リスクの「知りたい度」を判定するRBI方程式
先日、遺伝子検査を受けました。唾液を提出して数週間すると、様々な病気の発症リスクや体質についての情報をWebサイト経由で読めるというサービスです。閲覧できるようになったとの通知を受けてアクセスしてみると、一部の病気についてはプロテクトがかかっていました。これらの病気についてのリスク情報を読むかどうかはあなたの判断に委ねます、というのです。
サービスに申し込んだ時点で意思決定を済ませていたはずですが、こうやって改めて問われると、迷いが生じます。○○病のリスク情報がワンクリック先のページにあるとき、自分はそれを知りたいか?ある病気についてはYes、ある病気についてはNoならば、その基準は何なのか?難しい問題です。
アメリカの米国立衛生研究所(NIH)で所長(出版当時)を務めるフランシス・S・コリンズ博士は、著書『遺伝子医療革命―ゲノム科学がわたしたちを変える』(日本放送出版協会、2011年)でこう述べています。
『パーソナルゲノム医療からは新たな疑問が生じる。あなたはほんとうに将来の可能性について知りたいのか、という疑問だ。(略)自分のリスクを知ることで命が救われることはたしかにある。でも、知らないままでいたほうがいい場合もあるのではないか?』
コリンズ博士は、この問題を考えるための簡潔なフレームワークを示してくれています。『私たちはこの種の情報を得たいかどうか判断するとき三つの点を考える』と言い、次の3要素を挙げています。
- 要素R:そのリスク(Risk)はどれだけ大きいか?
- 要素B:その病気になったとき、どれだけの負担(Burden)があるか?
- 要素I:どんな介入法(Intervention)があるのか?
病気リスクの「知りたい度」を判定するRBI方程式 – *ListFreak
さらに「知りたい度」はこれらの要素の掛け算となるとして、次のRBI方程式を紹介しています。
知りたい度 = リスク(要素R)×負担(要素B)×介入(要素I)
しかし、RBIの大きさが分かるということは、すでに「知っている」ということになりますよね。話の運びか、翻訳か、わたしの読解か、何かがおかしいようです。そこで、RBIが大まかに分かっている状態で「さらに詳しく知りたい」かどうかを考えるためにこの方程式を使うものと考えて先に進みます。
まずリスク。たとえば100万人に1人の発症率であるA病と10人に1人の発症率であるB病があるとして、同じコストをかけて病気の罹りやすさを知りたいのはどちらかと考えてみると、B病です。ただし、リスクは絶対リスク(発症率)と相対リスク(平均と比べての罹りやすさ)の積なので、A病への罹りやすさに20万(倍)というような数値があり得るのなら話は別です。いずれにせよ、リスクが大きいほど、関連情報を詳しく知っておきたいと思うでしょう。
次に負担。たとえば同じだけの時間を費やして情報を得るなら、発症しても生活に支障のない病気よりも、命や尊厳に関わる病気を選ぶと思います。
最後に介入。これはなかなか微妙な要素のように思います。RとBの観点からみて知りたいと思える病気であれば、わたしなら介入(治療や予防)方法を知りたくなります。選択肢が多ければ広く、少なければ深く。
そんなわけで掛け算として知りたい度を測れるかどうかは判然としない部分があるものの、リスクについて「何を知りたい(知るべき)か?」と考えるときの枠組みとしては有効に使えそうです。
リスク検討のフレームワークPI/PR
せっかくですから、RBI方程式を敷衍して、リスクを考えるときのフレームワークとしてまとめておきたいと思います。たとえば会社のあるプロジェクトで、今後3年間くらいのスパンで「わが社のリスク」を100個洗い出し、詳細に検討すべき10個を選ぶとします。どんな基準で選べばよいでしょうか。
リスク(要素R)と負担(要素B)はそのまま使えそうです。介入(要素I)については、予防的な介入によって見かけのリスクや負担が下がるため、事前の予防と事後の対応に分けて考えたほうが分かりやすいでしょう。そこで項目を一つ増やしたうえで一般化します。
- 【確率(Probability)】 それが起きるのはどれくらい確からしいか?
- 【影響(Impact)】 それが起きたときの影響はどれくらい大きいか?
- 【予防(Prevention)】 それが起きないようにする予防策は何か?どれくらい講じられているか?
- 【対策(Reaction)】 それが起きたときの対応策は何か?どれくらい備えられているか?
リスク検討のフレームワークPI/PR – *ListFreak
確率と影響については、予防策を講じていない場合の見積もりを行います。
予防および対策については、実際には策の潜在的な効果×実行度(予防策であれば実際に講じられている度合い、対応策であれば実行できる度合い)に分けて見積もるべきでしょう。
これらの4要素を大まかに点数化し、次の式で値が高くなるものに注目すればよいことになります。
リスク検討指数 = [確率(要素Pro)×影響(要素I)] / [予防(要素Pre)×対策(要素R)]
※検討の手間を少なくするため、実際にはまず確率(要素Pro)×影響(要素I)の大きなものを20個選び、それらについて予防(要素Pre)と対策(要素R)の状況を評価していくべきでしょう