カテゴリー
コンセプトノート

187. マイペースで成長しつづける

人間、生涯にわたる激しい競争に耐えることは可能か

吉本隆明氏の『家族のゆくえ』という本の中に、いわゆる胎児教育・早期教育に疑問を呈した愉快な一文があります。

早期教育の効果は、せいぜい「若くして大学に入れた」程度。天才を輩出したというような報告を見かけない。だから効果がないとは言わないが、その効果は成長期くらいまでしか及ばないのではないか。そう指摘した氏は、こう続けます。

 それが良いことか悪いことか、長い生涯を通して見てみないとわかるわけがない。もし大人になったときくたびれてしまったということであれば、早期教育なんてくたびれるだけじゃないか、とおもう。

(p52、太字は引用者による)

「くたびれる」という平たい表現に「そうだよなあ」と笑いつつ、これは本質的な指摘だと感じました。

子供が小さいうちは、親が勉強を押しつけるのもいいと思います。
しかしそこには、親としての見識がなければならない。

もし「将来楽をするために、今は無理してでも頑張れ」という程度の発想で子供に(あるいは自分に)接するならば、いつか「くたびれる」でしょう。現代の社会においては、競争がある環境が健全とされていますから、レベルが上がれば上がったで、土俵を変えた競争があります。人生の前半で苦労は一丁上がりというわけにはいきません。

長丁場を楽しんで戦い抜く知恵

そんなことを考えながら読んだのが、安定成長主義を貫く会社の社長が書いた『いい会社をつくりましょう。』。急成長を避け、木が年輪を増すごとくに成長するスタイルを理想とされています。

とはいえ、のんびりやりましょうということではありません。もちろん、それほど甘くない。
長期的な安定成長のために重要な経営戦略のひとつが、「研究開発」への投資。

コア(この会社の場合は寒天)を定めて、しっかり根を張っていく。常に市場の期待に応え続けられる製品力があれば、成長スピードを選ぶ余裕が生まれます。それがなければ、「売れるうちに売っておこう」という発想になります。うまく急成長できても、長続きしない。「くたびれて」しまう。

これを個人になぞらえるなら、仕事のポートフォリオを作るということに他なりません。常に少しずつ、自分の研究テーマを深めていく。

先日ランチをご一緒させていただいたAさんは、blogで特定分野の本を集中的に読まれており、わたしも日頃から勉強させていただいていました。
しかしお会いして話を聞いてみると、実際のお仕事はまるで違うのです。興味がある分野なので空き時間に本を読み、そこで学んだこと・考えたことをblogで綴っているということでした。
その蓄積が、いつかAさんを助けることになるのではないかと思っています。

(参考)
仕事のポートフォリオ
布石を打つ