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コンセプトノート

594. ホワイトカラーのポカヨケ

ポカヨケ

『発想を事業化するイノベーション・ツールキット ―― 機会の特定から実現性の証明まで』(デヴィッド・シルバースタイン他、英治出版、2015年)という本に目を通しました。著者らはイノベーションを起こすためのプロセスを次の4フェーズに分け、 “the D4 model” と名付けています:

  • Define the Opportunity(機会を定義する)
  • Discover the Ideas(アイデアを発見する)
  • Develop the Designs(設計を作り上げる)
  • Demonstrate the Innovation(イノベーションを証明する)

本書ではツールキットの名にふさわしく、各ステップで使えるツールが60近くも紹介されています。ツールの一覧は、本書のサイトにある目次ページで一覧することができます(英語)。

そのなかに「ポカヨケ」というツールを見つけました。「設計を作り上げる」というフェーズの中にあります。〈ポカ(うっかりミス)を除ける〉仕組みを作るというQC(品質管理)用語だというくらいの知識しかなかったのですが、調べてみると Wikipediaでは22もの言語でPoka-yokeのエントリが作られています。ちなみにBushido(武士道)は47言語、Mottainai(もったいない)は7言語です。

ポカヨケの19原則

本書では19種のポカヨケを紹介したうえで、実施する方法について8ページを費やして説明しています。19種の要約だけ引用するとこんな感じです:

  1. 【配置と整頓】 品目の相対的な位置(配置)を決め、指定された場所に置く(整頓)
  2. 【ポジティブストップ】 使用者を負傷させたり製品に損傷を与えたりしない(例:扉を開くと停止する皿洗い機)
  3. 【小分け】 正しい量だけを供給する(例:ディスペンサー)
  4. 【空間の分離】 物理的な空間を制御する(例:待つ人の行列の形を作るチェーン)
  5. 【存在の確認】 ある状態が存在することを検知し、反応する(ドアや窓が壊されると音を出す家庭用アラーム)
  6. 【資源の代替的利用法】 ある品目に特有の特徴を利用する(例:重力を利用して最後の一滴まで使い切れるようにした逆さ置きのケチャップ)
  7. 【視覚的管理】 行動を管理するために視覚的な合図を使う(例:清潔なタオルに紙テープを巻いておくホテル)
  8. 【決行か中止か】 ある特徴の存在または大きさを検知し、決行/中止または合格/不合格を判定する(例:空港にある、手荷物棚と同じ寸法のゲージ)
  9. 【時間の分離】 矛盾する、または反対の特徴要件を、時間で分離してミスを防ぐ(例:交通信号)
  10. 【条件による中止】 動作(停止)条件を組み込んでおく(例:キーとブレーキの位置が適切でないとギアが動かせない自動車)
  11. 【除去・交換・代用】 エラーや欠陥を生じさせているタスクを除去・交換・代用する(例:本人確認に指紋を使う)
  12. 【キット化】 必要な道具をすべて揃えておく(例:部品や工具までもセットになった、組み立て式の家具)
  13. 【5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)】 5Sの原則を適用して乱雑さとムダをなくす
  14. 【かんばん方式】 特定の順序・パターン・方法に従って、品物・情報・人を配置する
  15. 【テンプレート】 ひな形を使う
  16. 【チェックリスト】 チェックリストを使う
  17. 【ハイライト】 何かを一目瞭然にして目立たせる(例:入力箇所をハイライトするWebページ)
  18. 【情報の伝達】 重要な情報を効果的に伝える(例:道路標識、アラーム)
  19. 【トレンド予測】 歴史を観察して将来を予測する

ポカヨケの19原則*ListFreak

この種類の多さに、ミスを許すまいという執念にも似たものを感じます。日常生活でも、忘れ物などをすると年齢(による記憶力の衰え)のせいにしがちですが、記憶力に頼らずこういった工夫を仕組んでおこうと思います。

予測できるなら予防せよ

意思決定・会議・合意形成のような目に見えない作業をする立場から、ポカヨケの原則に何を学べるか。これらの原則を直接適用することは難しいので、その精神を汲んでみたいと思います。19種のポカヨケを、それが発動する段階別に分類してみると、次のようになるでしょう:

  • 【予防】ポカがそもそも起きないように準備する
  • 【実施】作業中のポカをなくす
  • 【対策】ポカが起きても連鎖・拡大させない

もっとも重きが置かれているのは【予防】です。後段の、ポカヨケ戦略の実施の説明部分に印象的な解説がありました。

たとえば「停電に備えてバックアップのバッテリーを確保しておく」のは、先の分類でいえば【予防】のようですが実際には【対策】です。なぜならバッテリーでは停電を防げないので。【予防】は、電源の信頼性を高め、停電自体をなくそうとすることです。

予防をするためには、どんなポカミスが起きるかを予測できねばなりません。本書では潜在的なミスを周到に予測するためのさまざまなツールも紹介されていて、その充実ぶりに製造業が培ってきた知恵の深さが感じられます。

わたしが本書(のこのパート)から受け取ったメッセージは「少なくとも、予測できるなら予防せよ」です。

たとえば、会議においてよくある
「声の大きい人の意見が通りがち」
という問題。結果としてそうなってしまう原因をどれだけ洗い出したか。その原因をつぶすためにどれだけの対策(ポカヨケ)を仕込んだか。そのように振り返ってみると、嘆く前にできることはたくさんあると気づけます。わたしの目下の興味でいえば、講義の場で最大の学びを生み出すという目標に向けて、そこから遠ざかる要素をいかに少なくできるか、設計を見直してみようと思います。