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コンセプトノート

452. ビジョンを借りてくる

「自分への弔辞」の新しい見本

クリエイティブ・チョイス』では「目的を絞り込むためのエクササイズ」の一つとして「自分への弔辞を書く」というエクササイズを紹介しています。本書では目的=価値観+ビジョンとしていまして、このエクササイズはビジョンを更新するためのものです。サンプルとして2つの弔辞を引用しました。

年末の休みに読んだ本に、このサンプル群に加えられそうな文章を見つけました。実際には弔辞ではなく、ある幸福な人生を送った人の描写です。

 まず大切なことは、彼が善良な人間だったということである。エネルギーに満ち、誠実で頼りがいがあった。何か失敗をした時はそれを素直に認め、また失敗したからといって物事を簡単に諦めたりはしなかった。自信があったのでリスクを冒すこともできたし、一度すると決めたことはやり遂げる意志の強さもあった。自分の弱点を知る努力を常に怠らず、良くないことをしたと思えば、必ずその埋め合わせをしようとした。悪い衝動が湧いてもうまく抑えることができた。

 彼は人付き合いも上手だった。他人の気持ちを敏感に察知したし、他人の考え方もよく理解した。状況を把握してそれに応じた行動を取ることにも長けていた。大勢の人の前に出ることも厭わなかった。多様な意見に同時に耳を傾けることもできた。ともかく、今、自分がどのような状況に置かれていて、どう動くべきなのかが直感的にわかるのだ。相性の良い組み合わせ、そうでない組み合わせを見抜くこともできたし、進める意味のあること、進めても意味のないことを区別する力もあった。まるで優れた船乗りが海の上で針路を見極めるように、彼はこの世界における自分の針路を見極めることができた。

これは『人生の科学: 「無意識」があなたの一生を決める』という本からの引用です。「はじめに」で、著者が二人の主人公の人生について述べた箇所から、人称代名詞を単数に変えたうえで引用しました(わたしが男性なので「彼」にしています)。

この本の原題(“The Social Animal – The Hidden Sources of Love, Character, and Achievement”)は、直訳すると「社交的な動物 〜 愛・性格・達成の隠された源」です。ジャーナリストの著者は、いわゆる「無意識」について得られている科学的な知見を、二人の架空の主人公の人生を追うかたちで紹介してくれています。

わたしが我が意を得たりと感じたのは、まず大切なのが「善良さ」だというところです。善良という言葉で表現されるある種の資質(から生まれる行動の特性)について研究したいと思っているので、この言葉には鋭く反応してしまいます。
次に、2つの段落がそれぞれ「自分のマネジメントと人間関係のマネジメント」に充てられているところです。よき意志決定者であるために重要な能力は、およそこの2つではないでしょうか。知識の多さや技術の高さももちろん重要ですが、それは、引用文にある「頼りがい」を形成する要素の一つにすぎないように思えます。

ビジョンを新たにする

一年の計は元旦にありと言います。しかし計の字が計画を連想させるせいか、あれをしてこれをして……という行動計画を立てることに意識が向いてしまいがち。本来ならば、その行動の目的である、こうありたいというイメージを新たにする時間も持ちたいところです。

とはいえ、こういう文章を自分で作るのは、かなり精神的なハードルが高い作業ですよね。その点、「いい文章」を借りてきてちょっと手直しするアプローチは手軽です。今回は実用書からの引用でしたが、文学作品などからでも、いいなと思える人物描写などをメモしておくと、翌年の「一年の計」が楽になりそうです。