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コンセプトノート

180. パーソナル・タッチ

友人に、こんな話を聞きました。

 先日、美容室で髪を切ってもらいながら、美容師の方と雑談をしていた。
 本好きなので本の話題を振ってみると、驚くほど本を読んでいない。
 「ベストセラーの『ダ・ヴィンチ・コード』は読みやすくて面白いですよ」
 と彼女がと言うと、美容師さんは
 「読んでみます」
 と言った。
 本が好きそうには見えなかったので、社交辞令だろうと思っていたら、
 一ヶ月後に葉書が来て、「いま読んでいます」と書いてあった。
 二ヶ月後に行ったときには、
 「やっと上巻を読み終えました。面白いですね!」
 と言っていた。喜んでくれてよかった。

来店後に美容師さんが葉書を出すことは、
いまや美容師の業務の一環のようですね。
ですから、それが手書きで書かれていても、
好感は持つでしょうが、驚くようなことではありません。

一方、「顧客の勧めた本を読んでみる」ことは
大変「強い」サービスになります。

そもそも、自分のお勧めに従って他人が時間を使ってくれたり、そのお勧めに感謝してくれたりするのは、勧めた人間にとって嬉しいことです。

しかも、これは「業務」としては、まずあり得ない。
本を読むのは業務時間外になりますから、店が強制できるものでもない。
客単価がよほど高ければ別ですが、その美容院はカット3,500円くらいの
ところです。

となると、美容師さんは「お仕事」としてではなく、
自発的に、自らの楽しみとして、自分の勧めに応じてくれた。

そのような感覚を、「パーソナル・タッチ」と呼ぶことにします。
仕事を超えた「パーソナル・タッチ」が感じられると、サービスの提供者に
強い親近感を抱く。

競争の激しい業界では、製品・サービスの性能や機能にはあまり差がないので、
上記のような「パーソナル・タッチ」が競争力になります。美容師さんの例で言えば、美容師としての腕前が同じならば、親身に客の話が聞ける、客との対話を楽しめる人が競争優位を得るということです。

ただ、繰り返しになりますが、「パーソナル・タッチ」は他者が強制して実現できるサービスではありません。業務の一環に組み込んだり、強制したりした瞬間から、それは「お仕事」になり、「パーソナル・タッチ」は失われてしまいます。

これから社会がますます成熟し、サービス化していく時代にあって、この流れは徐々に大きく広がっていくと考えます。もしそうならば、我々が次の仕事を選ぶ際には、

 そこで自分が「パーソナル・タッチ」を出せるかどうか

を考えることが重要かもしれません。