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コンセプトノート

437. ハッピーでいるべきこれだけの証拠

幸福優位 7つの法則』という本を読みました。ネットの記事にTEDでの講演へのリンクがあり、面白かったので講演者の著作を検索し、手に入れる……という流れが多くなっているような気がします。これからのもの書きは喋りも上手な方がよさそうですね。

それはさておき、本書はポジティブ心理学および周辺の心理学の知見を集めて、一つのメッセージに集約しています。それがタイトルにもある「幸福優位」(原書のタイトルは “The Happiness Advantage”)。努力して → 成功すれば → 幸福になれる、という図式は正しくなく、社会心理学的な実験や追跡調査は、幸福感を保てる人が結果として成功していることを示しているそうです。

このメッセージを先頭に、著者は次のように7つの法則をまとめています。

『膨大な量の調査を終了して分析を終えたとき、具体的で、行動に移すことができ、効果が実証済みの、成功と達成に関わる七つのパターンを特定することができた。』

  1. ハピネス・アドバンテージ ― 幸福感は人間の脳と組織に競争優位をもたらす
  2. 心のレバレッジ化 ― マインドセットを変えて仕事の成果を上げる
  3. テトリス効果 ― 可能性を最大化するために脳を鍛える
  4. 再起力 ― 下降への勢いを利用して上昇に転じる
  5. ゾロ・サークル ― 小さなゴールに的を絞って少しずつ達成範囲を広げる
  6. 二〇秒ルール ― 変化へのバリアを最小化して悪い習慣をよい習慣に変える
  7. ソーシャルへの投資 ― 周囲からの支えを唯一最高の資産とする

幸福優位7つの法則*ListFreak

……本全体としては分かりやすい本でしたが、著者のキーワードは、わたしにはひねりが利きすぎてしまったかもしれません。一読して、しばらくしてリストを眺め直して「あれ、テトリス効果って何だっけ……」となってしまいました。

そこで読書メモを作るつもりで、この7法則が実際に言っていることの要約を試みましたので、お目にかけます。

  1. 成功した人が幸福になるのではなく、幸福感を持つことが人を成功へと導く。
  2. 成功は自己達成的な予言である。つまりマインドセットが成果を左右する。
  3. ものごとのポジティブな面を探すことは、習慣化できるスキルである。
  4. 人には逆境からの回復力、ひいてはチャンスへの転換力が備わっている。
  5. 目標を達成するには、コントロール可能で小さな行動から始める。
  6. 習慣をつける(なくす)には、意志に頼らず、その行動をしやすく(しにくく)する。
  7. よい人間関係は、個人の幸福感と組織の成功を左右する最大の因子である。

幸福優位7つの法則(koji版)*ListFreak

 以下、各項目の内容を簡単に振り返っておきます。

1. 成功した人が幸福になるのではなく、幸福感を持つことが人を成功へと導く。

これが本書のメインメッセージ。根拠として挙げられているのは、ポジティブ感情の役割を理論化した「拡張−形成」理論です。ざっくりいえば、ポジティブ感情の役割は人間の視野を広げ、成長への資源を充実させるという説。提唱者であるバーバラ・フレドリクソンの著書も『ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則』という題で和訳されています。

2. 成功は自己達成的な予言である。つまりマインドセットが成果を左右する。

マインドセット(気の持ちよう)で、人は能力を伸ばし、よく発揮することができるどころか、若返ることだってあるという実験や調査が紹介されています。キャロル・ドゥエックの研究については、やはり和訳『「やればできる!」の研究―能力を開花させるマインドセットの力』で読むことができます。

3. ものごとのポジティブな面を探すことは、習慣化できるスキルである。

この章で紹介されている”The Invisible Gorilla“というビデオは、われわれの選択的注意力の強さを実感できる必見映像です。また注意の差が何をもたらし得るかについてのリチャード・ワイズマンのユニークな研究は、2004年にはすでに訳出されていました。昨年(2011年)には『運のいい人の法則』として文庫化されました。

4. 人には逆境からの回復力、ひいてはチャンスへの転換力が備わっている。

レジリエンスについての研究をまとめた章です。ザ・入門書的な参考文献は拾えませんでしたが、著者の恩師でもあるタル・ベンシャハーの『最善主義が道を拓く』が紹介されていました。

5. 目標を達成するには、コントロール可能で小さな行動から始める。

自己コントロール感を持つことの重要性について述べた章です。自己コントロールを失った脳は、ダニエル・ゴールマンが言うところの「情動のハイジャック」状態に陥ってしまいます。自己コントロール感を取り戻すにはどうしたらよいか。著者は、まず自分の気持ちを言葉にするなどしてつかまえる、いわゆる自己認識から始めることが重要と述べています。

6. 習慣をつける(なくす)には、意志に頼らず、その行動をしやすく(しにくく)する。

本書では、様々な事例や研究が紹介されています。本書の参考文献ではありませんが、『パフォーマンス・マネジメント―問題解決のための行動分析学』の内容がかなり当てはまるように思えました。

7. よい人間関係は、個人の幸福感と組織の成功を左右する最大の因子である。

個人の幸福でいえば、268人の男子大学生を60年間以上も追跡した調査の結果が「周囲の人との関係が何にも増して重要」だったそうです。組織の成功についても、さまざまな事例と『人と人の「つながり」に投資する企業―ソーシャル・キャピタルが信頼を育む』といった参考文献が挙げられています。

本書が幅広いメタ研究(研究についての研究)であることがお分かりいただけると思います。