地頭力を擁護する
『「地頭力」試すのは時間の無駄だった グーグル人事責任者、衝撃の告白』(J-CAST)という記事を読みました。核心部分を引用します。
「飛行機の中にゴルフボールをいくつ詰め込めるか、マンハッタンに給油所は何か所あるか。完全に時間の無駄。こんな質問では何の予測もできない」
NYTの2013年6月19日付インタビューにこう答えたのは、グーグルで人事担当の上級副社長を務めるラズロ・ボック氏。グーグルがこれまで実施してきた採用試験の方法論を真っ向から否定する発言だ。
さらにグーグルの広報担当者は米ABCニュースの取材に、試験内容を変更すると認めた。入社希望者から不評をかっており、何よりも「この種の質問を解き明かす力と、将来業務で発揮できる能力やIQとの関連性に疑問が生じた」のが大きな理由だと答えた。
興味を持ったので、その「米ABCニュースの取材」と「NYTの2013年6月19日付インタビュー」を読んでみたところ、日本語メディアの解釈とはすこし違う印象を持ちました。
NYTの記事を読んでみると、ボック氏は上述の発言に続けて、よく練られた行動面接(後述)のほうが、質問を個々の面接官に任せる(”having each interviewer just make stuff up”)よりも有効だったと述べています。
どうも、今までの面接は「よく練られた」ものではなかったようです。もし、何を問うかも回答から何を読み取るかも面接官任せであったとしたら、質問の内容以上に面接のプロセスに問題があったように思います。
ボック氏はインタビューの終盤で、職務経験を問えない新卒を採用するにあたっては「あきらかな答えが無い問題の解決に好んで挑む人が欲しい」(You want people who like figuring out stuff where there is no obvious answer.)と述べています。これはまさに「飛行機の中にゴルフボールをいくつ詰め込めるか」式のクイズで推し量れることではないでしょうか。ただし面接官には、回答の正誤よりも問題に取り組む態度を観察するよう、面接プロセスをよく練らなければなりません。
ABCの記事に書かれているとおり、この手のクイズは良問の在庫が限られています(これについては採用側の発想力の限界こそが問われるべきかもしれません)。問題のタイプが有限ならば事前に解き方を考えておくことができるため、「あきらかな答えが無い問題の解決に好んで挑む人」かどうかを推し量ることが難しくなってしまいます。
ですからクイズ一本槍の、しかも現場任せの面接を中止する判断は妥当だと思います。しかしその事実をもって、この手のクイズが有効でないとまではいえないでしょう。
経験を語る
一方、有効性が確認されたという「よく練られた行動面接」とはどのようなものでしょうか。行動面接では、過去の具体的な行動をたずねます。もし学習能力の高い人を欲しているのであれば「あなたは勉強が好きですか?」「ウチに来たら勉強してもらうことがたくさんありますが、大丈夫ですか?」と聞くかわりに、「仕事の環境が激変して一から学び直さなければならなかった経験があれば、それについて話してください」と聞きます。
行動面接(behavioral interview)で検索すると、回答のコツとして次の4つの要素を含めるべきという記事がたくさん見つかりました。
- [S]ituation – 状況(具体的な状況)
- [T]ask – 仕事(その状況でなされなければならなかった仕事)
- [A]ction – 行動(自分が取った具体的な行動)
- [R]esult – 結果(その行動の結果起きたこと)
行動面接の回答に含めるべき4つのポイント(STAR) – *ListFreak
平時に読むと「言わずもがな」に感じられますが、面接の最中に思い出すためのリストならば、4つでも多いくらいですね。日本語で頭字語を作っておいた方がよいかもしれません。
ボック氏は「分析が困難な問題を解決した経験について語ってください」という例を挙げたうえで、このような問いかけからは2つの情報が得られると述べています。
一つめは「回答者が現実の問題にどう向き合ったか」という情報です。これは回答そのものです。もう一つ、価値ある情報として「どのような問題を困難と見なすのか」という回答者のものの感じ方を挙げています。
なるほど、「よく練られた」質問です。人間関係の問題に突っ込んでいくのを苦手とする人は、人間関係の話題を困難な問題として挙げるでしょう。一方、人間関係上の問題解決をまるで苦にしない人もいます。話題の選び方によって、その人の強み弱みを推し量ることができるわけです。
さらに、注意深い質問だと感じたのは「もっとも最近の」や「もっとも困難な」といった、経験を1つに絞る基準を与えていない点です。そういう制約条件がないので、話題を自由に選択できます。面接官は「もう1つ、エピソードをお願いできますか?」と聞くことで、回答者のものの感じ方をさらに詳しくつかむことができます。
回答者側からすると、STAR以前の準備として、どのような経験を選ぶかということが重要になってきます。
わたしは転職の予定こそないものの、講師として必要に応じて経験談を披露しなければなりません。その意味では毎回参加者から面接を受けているようなものです。しかも、場にいる一番の若手が自分で、参加者のほうがはるかにビジネス経験が豊富であることもあります。
そんな状況をどうやってしのいできているかを振り返ってみると、数少ない経験を反芻して、1つの経験からいく通りかの学びを引き出していると言えそうです。STARにひっかけて命名すると「スターエピソード」をいくつか持っています。
あたり前ですが、一つの経験の中にはいろいろな側面があります。リーダーがいて、メンバーがいて、お客様がいて、資源の制約があって、対人トラブルや一体感が生まれる瞬間があります。同じ聴衆に何回も話をするのであればそれなりに材料も豊富に用意する必要がありますが、採用面接や企業研修の場であれば、事例のバラエティはそれほど重要ではありません。限られた経験であっても、目的にふさわしい切り口で取り出せればよいのです。
(参考)「体験のすごさでなく、学びの深さを語る」