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コンセプトノート

089. よい物語はよい贈り物に似ている

■ビジネスにおける「物語」
物語を作っているのは作家だけではありません。ビジネスの多くの部分は実によい物語を作る作業そのものです。なぜならビジネスは社内・社外を問わず「説得」という行為がとても大きいウエイトを占めていて、物語は強い「説得」力を持つからです。

経営者が投資家から資金を集めたいと思えば、投資家がそれに賭けてもいいと思える物語を語らなければなりません。セールスパーソンが商品を売ろうと思ったら、相手が買いたくなるような物語を語らなければなりません。
事実(ファクト)を集めたり数字を積み上げたりしても判断し兼ねるような、不確定性の高い決断ほど「物語」の重要性は増してきます。未来予測の手法の一つであるシナリオ・プランニングなどはその最たるものですね。

これを受け手の側から考えると、提案を受け入れるかどうかはすなわち「示されたストーリーに乗れるかどうか」だということです。ビジネスでストーリーテリング(story-telling)が重視されるゆえんです。

■個人の意志決定と「物語」
これは過去にも触れてきたテーマの蒸し返しですが、「ビジョンを持つ」とか「方向性を決める」とかいう作業もまた「よい物語を作る」ことに似ています。ただし書き手も読み手も自分。他人のシナリオを拝借したってヒントをもらったって構わないから、とにかく読み手としての自分を説得できるような物語を手に入れたいと、多くの方が望んでいるのではないでしょうか。

■よい物語の条件をプレゼント選び(gift-giving)から考える
最近、「よい物語はよい贈り物(gift)に似ている」というコラムを読みました。よい物語とよい贈り物には、こんな共通点があるというのです。

「呼び起こす(Evocative)」:よい物語/贈り物は、受け手に深い知的かつ情緒的な反応を起こす。

「トリップさせる(Transporting)」:よい物語/贈り物は、受け手の想像力や記憶や共鳴をかきたて、受け手を他の場所や時間に連れて行く。

「心を動かす(Persuasive)」:よい物語/贈り物は、受け手の考え方や理解のしかたを根本的に変える。

「忘れがたい(Memorable)」:よい物語/贈り物は、受け手の心に長く留まる何かを残す。

「使える(Useful)」:よい物語/贈り物は「使える」。つまり受け手がしなければならないことを簡単に、速く、あるいは楽しくする。

■終わらない物語とは、「変わり続ける・動き続ける」物語
もしあなたがよい贈り物をもらったらどうしますか。永く使いますよね。それと同じで、よい物語に触れると「終わって欲しくない」と思うものです。シリーズものの本やコミックにハマッた経験のある方なら誰でも納得、ですね。

物語の作り手としてはここをよく考えることが重要です。企業がファンを作るには、セールスがリピートオーダーを取るには、「終わって欲しくない」と思ってもらえるストーリーを紡げばいいということになります。

個人のビジョンメイキングにおいても、自分が自分のために語っている物語が「終わって欲しくない物語」といえるかどうかという評価基準は面白いと思いました。

終わらない物語とは、「変わり続ける・動き続ける」物語でもあります。自分のビジョンみたいなものも、一度作っておしまいということはありません。自分の成長に合わせて書き換えていって構わないし、むしろどんどん手を加えることで自分ストーリーテラーとしての腕を磨くことが出来るような気がします。

(参考:このノートは下のコラムに寄りかかって書きました)
A STORY IS LIKE A GIFT

※水戸黄門みたいに、変わらないけど終わらない物語もありますね。まあ動き回ってはいますが…。