カテゴリー
コンセプトノート

582. のぞき見の目、身代わりの目、直観の目で決断する

大きな決断をするための、5つの問い

もう10年以上、愛用しているリストがあります。

  • 完全に合理的な人は、どう決断するだろうか?
  • 80歳になった自分が過去を振り返ったとき、この決断をどう思うか?
  • あと3年で死ぬとしたら、どのような決断になるか?
  • (尊敬する人の名前)なら、どう決断するだろうか?
  • (尊敬を失いたくない人の名前)に自分の決断が間接的に伝えられたとき、この決断をどう見るだろうか?

大きな決断をするための、5つの問い*ListFreak

マイケル・ウィーラー『交渉は創造である ハーバードビジネススクール特別講義』という交渉の本を読んでいたら、最終章「交渉に正義はあるか?」に似たようなリストを見つけました。他人の立場で考えてみることにより重きが置かれています。

責任ある行動をとるのに倫理学の博士号は要らないが、交渉が始まる前に自分にとって重要な価値観を把握しておく必要はある。正しい行為と誤った行為を分ける境界線を超えないようにするための、有効なテストがいくつかある。

  • 普遍性チェック - その行為をあなたと同じ立場にある人全てに推奨できるか
  • 相互性チェック - 相手に同じことをしてほしいと思うか
  • 世間体チェック - あなたの行為が新聞あるいはネットで詳細かつ公平に伝えられても恥ずかしくないか
  • 親友チェック - 親友、配偶者、または子供に自分の行動を伝えるのは恥ずかしくないか
  • 後世の評価チェック - その行為によって後世に名を残し、記憶されたいか

「正しさ」のセルフチェック*ListFreak

大きな決断をするための、5つの問い」の最後の問いを拡張したような感じです。さっそく評価してみようと思いましたが、最近の、このリストが必要となるような際どい行為を思い出せません(それはそれで喜ぶべきことなのでしょうが)。

敢えて挙げるとすれば、ある人からの仕事のお誘いを断ったことがありました。内容は魅力的ながら、かなり長期にわたるコミットメントが必要な仕事でもあり、まさに「大きな決断をするための、5つの問い」で熟考した末の決断でした。あらためて「「正しさ」のセルフチェック」に照らしてみると、お断りしたわけですから当然「相互性チェック」に引っかかります。断るという決断は変わらないとしても、断り方においてもう少し配慮ができたかもしれません。

決断を観る3つの「目」

あれこれ考えていくうちに、2つのリストには大きな視座の違いがあることに気がつきました。直接対比させやすい項目を比べてみましょう。

  • (尊敬を失いたくない人の名前)に自分の決断が間接的に伝えられたとき、この決断をどう見るだろうか?
  • 親友チェック - 親友、配偶者、または子供に自分の行動を伝えるのは恥ずかしくないか

前者『大きな決断をするための、5つの問い』は、基本的には「あの人だったらどう考える/感じるか」という問いです。現在の自分の決断を(年老いた自分や死期の迫った自分を含めて)他の人格に仮託して客観的に見てみようという工夫があります。
後者『「正しさ」のセルフチェック』は、他人の目を意識しつつ、「自分はどう感じるか」という問いです。自分の価値観をよく見極めようという工夫があります。

視座の違いに対する気づきは、わたしにある映画脚本家の作ったリストを思い出させました。観客が映画を観るときの視座には三種類あるというのです。次の文章およびリストは、マシュー・M. ハーレー他『ヒトはなぜ笑うのか』からの引用です。

映画人であり映画脚本家でもあるジョン・ブアスティンは、映画をとおして物語を語るのにハリウッドがこれまでに発見している基本的な視座を三つ挙げている。

  • 【のぞき見の目】 論理的な三人称の視座。感情を交えず観察する。(voyeuristic eye)
  • 【身代わりの目】 共感的な三人称の視座。登場人物の感じるとおりに感じる。(vicarious eye)
  • 【直観の目】 一人称の視座。自分自身の感情を感じる。(visceral eye)

映画を観る3つの「目」*ListFreak

『大きな決断をするための、5つの問い』は、のぞき見の目(第1項目)+身代わりの目です。そして暗黙のうちに直観の目も含まれています。たとえば第2項目の問いに対して「80歳の自分(という第三者)はこう考えるだろう」という答えを得れば、それに対して自分の中に何らかの感情が生じます。それを直観の目で見て決断に活かしているのです。

一方で『「正しさ」のセルフチェック』は、はっきりとした直観の目です。これはこれで、特に個人の良心に関わる決断においては、有益な問いのリストでしょう。

『大きな決断をするための、5つの問い』に含まれていた3つの「目」を意識して、次の決断を眺めてみようと思います。つまり、

  • のぞき見の目:論理的にはどう考えるか。
  • 身代わりの目:○○さんはどう考えるか。
  • 直観の目:○○な状況において、自分はどう感じるか。

これらの視座を意識しつつ、○○をいろいろ動かしてみたいと思います。