カテゴリー
コンセプトノート

416. どんな気持ちでどう考えるか(4つの思考モード)

活かされてしかるべき「感情は思考に影響を及ぼす」という知見

何をどう考えるかは、どのような気持ちでそれを考えるかに影響される。これは経験からもうなずけますし、社会科学的な実験でも確かめられています。事実と言っていいでしょう。感情は、たとえば次のように思考に影響を及ぼします。

肯定的な感情が思考に及ぼす影響
・思考を広げる。
・新しいアイディアを生み出すのに役立つ。
・われわれを促してさまざまな可能性を検討させる。

否定的な感情が思考に及ぼす影響
・より明確な集中力を与える。
・内容をより効果的に検討できる。
・より効率的に誤りを調べる意欲を起こさせる。

EQマネージャー

われわれは、この事実を充分に活用できていないのではないでしょうか。たとえば部下の提案を評価するとき、ともすると否定的な感情に支配されて批判一本槍になってしまったり、逆に肯定的な感情に流されて細部のチェックが漏れてしまったり、ということがあります。しかし感情を一切排除することはもとよりできない相談です。むしろ特定の思考を促進するために感情を積極的に活用すべきでしょう。

考える前に、目的にかなった気持ちを意図的につくる。EQ理論でいえば、これは「感情の利用」という能力です。わたしが設計・提供している研修では、まず、われわれが無意識のうちにこの能力をすでに使いこなしていることを体感してもらいます。そのうえで、これをさらに意識的に使うために、ことで仕事の質がどう変わるかについて考えてもらったり、気持ちをつくるための工夫を考案してもらったりしています。

ただ現在のところ(少なくともわたしの知る限りでは)、どのような思考をするためにどのような気分になればよいかといった分類が細かくなされているわけではありません。そこで今回は、それに挑戦してみたいと思います。

よく考えるために、こころをどう動かすか

冒頭の引用では、感情を肯定的/否定的(=ポジティブ/ネガティブ)の2面から捉えていました。これと組み合わせられる思考の切り口として、同じように2面で捉えられる思考モードのようなものを探してみました。
発散/収束、驚き/疑い、発見/探究などを検討した結果、「驚き/疑い」で考えを進めてみたいと思います。以前の「驚く感性、疑う精神、信じる意志」というノートで紹介したとおり、驚きから問いと認識が生まれ、疑いから批判的吟味と明晰な確実性が生まれます。大ざっぱに言えば、驚きと疑いが思考の2大モードと考えてよいでしょう。

では、肯定的/否定的な気分で、驚き/疑いをもって何かを考えてみたいと思います。考えるといっても幅広いので、ここでは問題解決の最初のステップ、つまりある状況において問題を認知するために、心を働かせてみます。

たとえば、「部下Aさんのやる気がいまいち」という問題意識が浮かんできたとしましょう。「ポジティブ/ネガティブに、驚く/疑う」ということは、4種類のモードで自分の問題意識を検討することです。

【ポジティブな驚き】モード
肯定的な気分で、しかも驚きを探していくということは、現状を新鮮な視点でとらえ直すことを促すでしょう。当たり前の現状を敢えて「すばらしい!」と思って見てみると、「やる気がなさそう」という色眼鏡で見ていたAさんの、隠れた美点に気づくかもしれません。

【ネガティブな疑い】モード
否定的な気分でさまざまな対象を疑うことにより、客観的・徹底的な検討を加えることができます。問題意識を感じているときには容易に入れるモードでしょう。Aさんの言動が本当かを疑う、「やる気がいまいち」と感じる具体的な根拠を探す、そしてその原因を探るといった感じで思考は進んでいきます。

【ネガティブな驚き】モード
否定的な気分で驚くためには、おそらく高い理想を掲げる必要があるでしょう。「このくらいできていてしかるべきなのに、そんなこともできないのか!」という感じです。Aさんをそのような目で見れば、さらに多くの問題を生成することができます。もしかしたら「やる気がなさそう」といった最初の問題認識とは別のところに問題を発見するかもしれません。

【ポジティブな疑い】モード
肯定的な気分で疑うとは、現状を楽観的な態度で疑い、新しい可能性を追求するということでしょう。「Aさんのやる気のなさ(に見える様子)は、実は強みとして活かせるのでは?」といった感じになると思います。

……なかなか悪くないように思います。およそ何かについて考えるとき、頭の中にこの「ポジティブ−ネガティブ × 驚き−疑い」という2×2のマトリックスを作り、マスを行ったり来たりすることで、思考の幅や深さがどうなるか、引き続き試してみます。