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コンセプトノート

075. じんと来る言葉

「座右の銘ミュージアム」というコーナーがあります。

自分の座右の銘(大事にしている言葉)を書き出して、なぜそれが自分にとって座右の銘なのか、他人に説明するつもりで書いてみるというエクササイズは「自分ナビ」作成プログラムの中にあるのですが、それを任意に公開できるようにしたものです。無料登録ユーザーの方も自由に登録していただけます。

つい最近、久しぶりに会って食事をしていた友人から
「こないだ、あそこを眺めていたら、ふっと泣けてきた」
と言われたのでびっくりしました。

彼女は数ヶ月前に10年以上勤めた会社を辞めたのですが、それは会社都合での退職だったとのこと。仕事も自分に合っていたし、よい評価を貰っていたのでとてもショックだったと率直に話してくれましたが、そのような辛い思いをされていたことはまったく知りませんでした。

友人や先輩の縁で新しい仕事を得て、いまはとても忙しくしています。ただ、そんな辛い経験を経てから、「ことばの力」のようなものに惹かれるようになったと語ってくれました。

例えば「人間万事塞翁が馬」という言葉、なんとなく「なるようになる」という、主体性の無い言葉のようで好きではなかったそうです。

しかし実際に、会社都合で(つまり本人の意志ではなく)ぽんとフリーになってしまった。
ところが、そのおかげで旧交を温めたり新しいご縁を広げたりする時間や機会が得られた。
そして、そのご縁の延長に面白い仕事が見つかった。

そんな経験から得たものは、彼女自身の言葉で表現すれば「大きな流れに逆らわない」とか、「人の縁は本当に大事だ」とか。学ぶことがとても大きかったといいます。

そして改めて「人間万事塞翁が馬」という言葉を目にするとき、思い通りのキャリアを踏んでいた自分には届かなかったメッセージが、この言葉にあることを知ったそうです。

何の義理も義務もないのに「座右の銘ミュージアム」にぽつりぽつりと寄せられる言葉の、一つひとつにそのような重さを感じ取って
「ふっと泣けてきた」
のかな、と思いました。

実は、そういう話をしてくれたのは彼女が初めてではありません。職生活(会社での仕事とか自分なりのキャリアプランとか)が「煮詰まって」しまって、勇気を奮ってキャリアチェンジをしようと考えていらした方からも、同じコメントを貰ったことがあります。

およそ座右の銘と言われるような言葉は、
表面上はありきたりかもしれません。

しかし、

人がその「言葉」を語るとき、
その言葉にまつわるそのひとだけの経験や思いが、
そのひとだけの価値観を思い出す引き金になる。

それが「座右の銘」の力なのだと思います。