問題共有セッションの開催
「問題共有(Problem sharing)」というノートで、東日本大震災からの復興に取り組むNPOの問題解決セッションに参加した話を書きました。
問題は複雑で、若きリーダーたちは現地に住み込んで3年がかりで奮闘しています。そんな彼らに対して、一見の客に等しい応援ツアー参加者がその場でできる支援とは何か。わたしは、自分が応援してもらえるなら何が嬉しいかと考え、次の2点を挙げました。
- 「これは取り組む意義のある問題だ」と認めてくれること。
- 「これは困難な問題だ」と認めてくれること。
今回は、その話の続きです。
先のノートに書いたような感想をツアーの主催者Aさんにフィードバックしたところ、Aさんは興味を示してくれました。そしてNPOリーダーと話し合ったうえで、次のツアーで純然たる問題共有セッションを試してくれたのです。
セッション後、Aさんはそのときの模様を教えてくれました。
問題解決セッションでは、リーダーが問題の一部を課題として切り出して、解決策のアイディアを募ります。一方問題共有セッションでは、リーダーがいま困っていることを率直に述べます。
最初は、リーダーは難色を示したそうです。
それは当然だと思います。込み入った背景の共有なしに「いま困っていること」だけを説明しても、参加者が理解できるとは限りません。そしてリーダーが「いま『本当に』困っていること」は、NPOが取り組んでいる問題そのものではなく、これからのキャリアをどうするかといった個人的な問題かもしれません。
そんな踏み込んだ話を初めて会う人たちに話して、何か得られるものがあるのでしょうか。
それでも、試しにやってみようと決断してくれました。
結果から言えば、とてもうまく運んだようです。リーダーはAさんに「深い、深い気づきが得られた。こういった対話を今後とも続けていきたい」と感想を述べたとのこと。
いったい何が起きたのか。とても印象的なストーリーでしたので、順を追って紹介します。
相手に励まされる自分を見せることが相手への励ましになる
リーダーの「今困っていること」を聞き、参加者は次のような言葉を発しました。
「若いリーダーがこんなにがんばっている、自分もがんばろうと思った」
これだけを読むと、ただの感想です。参加者が自分の仕事をがんばっても、NPOの助けにはなりません。
でも、リーダーの側からこの発言を捉えるとどうでしょうか。わたしは、自分がリーダーなら「これは取り組む意義のある問題だ」「これは困難な問題だ」と認めてほしいと書きました。「自分もがんばろうと思った」という感想は想定すらしていませんでした。しかし接してみると、この言葉のほうにより励まされると感じます。
この言葉は、自分の行動が他の人によい影響を与えられるという実感をもたらします。都会から離れた場所で3年間も孤独な戦いを続けていたとしたら、どんなに励まされることだろうと思います。
そういった感想を聞き、質問に答え、さらに語るなかでリーダーが自分の気づきとして述べた言葉もまた、意外なものでした。
「物事が思うように進んでいないのには、自分に問題がある」
参加者が問題を分析してそう指摘したわけではありません。それなのに、なぜこんな結論が引き出されたのか。
参加者はリーダーの取り組みに深く共感していました。そのうえでわが身を振り返り「自分もがんばろう」と、率直に述べました。
参加者が見せたこの内省に今度はリーダーが共感し、鏡のような効果をもたらしたのではないでしょうか。内省する参加者に共感したリーダーは同じようにわが身を振り返った。それが、今までは他者のせいにしていた問題を違う角度でみるきっかけになった。そんなことが起きていたように思います。
励ましに行った側が、逆に励まされる。
励まされる側は、その様子を見て真に励まされる。
そんな励ましのループが、生じていたように思います。