今年は感情が個人の意志決定におよぼす影響について勉強すると決めました。
2009年最後のノートなので、来年の研究テーマに据えたいと思っている感情知能(Emotional Intelligence)について、頭出しをしておきます。
『「EQの六つの基本原則」』
四分の三がちょうど過ぎたところなので、ここまでの学びをまとめておきたいと思います。ここから先の用語やその定義は、必ずしも学術的にたしかなものではなく、わたしにとって理解のしやすい言葉づかいです。
感情についての統一見解は存在しない
感情の一般的性質は、知られているようであまり知られていない。心理学から捉えるならば感情心理学という独立した本の出現はごく最近のことである。
福田 正治『感じる情動・学ぶ感情―感情学序説』
感情(affections)についての統一的な理論はありません。感情は心の動きや状態の総称として、広く曖昧に使われています。
何かをする瞬間の感情の状態を「気持ち」(feelings)と呼びます。気持ちは思考に、ひいては意志決定のあり方に、影響をおよぼします。経験的には当然の話ですが、具体的に研究されはじめたのはわりと最近で、いわゆるポジティブ心理学の研究者らが知見を積み重ねています(参考:『ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則』)
今の気持ち=情動+気分
気持ちは情動(emotion)と気分(mood)の合成物として表現できます。これもアカデミックな定義ではありませんが、このように整理すると理解しやすいと思います。
情動について当ノートでは、冒頭で引いたEI理論(EQ理論)の話に加えて、「純粋理性の限界(感情が働かない患者の話)」、『「いやな感じ」「いい感じ」にも意味がある』、「6秒間で思慮深さを取り戻す」、「論理的に正しいことだけからは、意志決定を導けない」あたりで、学びを皆さんと共有してきました。情動のマネジメントは知能の一種であり、後天的に高められるというのがEI理論(EQ理論)です。
気分についてはノートでは論じていませんが、一般的には「比較的長く続く感情の状態」と定義されています。情動には明らかな原因があるのに対し、気分の原因を特定することは必ずしもできません。
ただし、原因が分からないからコントロールできないというものでもありません。たとえば、突然友人から誉められてドキッと感じたとします。この「ドキッ」は情動であって、それ自体は短い時間で消滅します。しかし、その情動は気分に影響を及ぼし、その後数時間はハッピーな気分だったりします。
性格を変えなくても、気持ちのマネジメントは可能
ある刺激によってどんな情動が起きるか。その情動によって気分がどう変わるか。これは人によってパターンが違います。そのパターンの源、個人に根ざした固有の何かを、ここでは人格・性格(personality)と呼んでおきます。
性格が変わらないものかそうでないのかについては、議論が分かれています。性格は個人に同一性をもたらすものでもありますから、仮に変えられるとしても漸進的にであり、かつ容易でないのはたしかでしょう。性格が変わりづらいものであるがゆえに、われわれは気持ちのマネジメントを難しいと感じます。
しかし情動に注目すれば、性格を変えることなく気持ちをマネジメントすることが可能であることに気づきます。
情動は、内側から作り出すことができます。昨日の楽しかったできごとを思い出すだけで脈拍が上がるのを感じるとき、われわれは内なる情動の存在に気づきます。
舞台俳優が私生活ではいたって静かだったり、ひどく内気な性格だったりすることがあります。そういった人は、性格が自然にもたらす状態としての気分に頼らず、意図的に情動を生み出すことで適切な気分に自分を持っていけるテクニックを磨いているのではないでしょうか。
よい意志決定のために、仕事や生活においてそのような情動のマネジメントをしていく方法を、ひきつづき考えていこうと思います。