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コンセプトノート

528. 「プランBは?」

「何かと『プランBは?』と言われます」

問題解決スキルのトレーニング中、いま抱えている問題を話してもらっていました。チームの残業を減らせないというリーダーが、仕事が予想以上に増えてしまう原因の一つとして、プランBを要求する上司を挙げました。たとえば新製品の告知キャンペーンを張るための計画を報告に行くと
「今月中に外部のWebデザイナーを確保するってあるけど、プランBは?」
という感じで突っ込まれるそうです。

プランB、海外の映画やドラマでときどき出てきますね。敵地に侵入して窮地に陥った主人公の2人組が、こんな会話を交わします:
「このままじゃまずいぞ!プランBは何だ?」
「……」
「おい、まさか出たとこ勝負かよ……」

BはAの次の字であり、バックアップ(Backup)の頭文字でもあります。上司が「プランBは?」と聞くのは「もしそれがうまくいかなかったとき、どうするのか?」ということです。このチームでは最近残業が恒常化してきたという現状があり、リーダーはそれを減らせと言われています。それなのに、なにかとプランBを要求されるので大変という話でした。

プランBを考えること自体時間がかかりますし、面倒です。保険のようなもので、成果が出てしまえば省みられることはありません。チームの残業を減らせと言いつつプランBも考えろという上司の指示は矛盾しているようにも思えますが、もしまっとうな意図があったとしたら、それをどう読めばよいでしょうか。そこで、プランBを考えることのメリットを整理しておきましょう。

面倒なプランBのメリット

第一に、バックアップ計画を持つことで仕事を止めずにすみます。もしWebデザイナーの確保が全体の遅れに直結する重要なタスク(クリティカルパス上のタスク)であれば、バックアップが必要です。それなしにタスクが遅れた場合には、しわ寄せが後半に及び、チームはかえって忙しくなるでしょう。

第二に、現在の計画を目的から再考するきっかけを与えてくれます。もしWebデザイナーが確保できなければ「社内から募る」しかない、と考えたリーダーですが、そもそも社内にタレントを求めるという案を思い付いていなかったことに気づきました。仮に社内で人材が確保できれば、そちらの方が優れた計画になるかもしれません。さらには「告知サイトなしで何とかする」というプランBを検討することで、サイトに求める最低限の機能がはっきりするかもしれません。プランBに切り替えなくても、プランBを検討するだけでプランAの仕事量が減るかもしれないのです。

第三に、交渉が必要な場合には、そのパワーが増します。どうしても今月中に社外から確保するしかないのであれば、どんな条件でものまざるをえません。しかし、(質は劣るが)社内の人材にも頼める、あるいは(効果は落ちるが)サイト無しでも何とかできるというようなプランBを持てば、「これ以下の条件をのむくらいならプランBのほうがましである」という限界値を持って交渉に臨めます。交渉におけるプランBは、よくBATNA(Best Alternative To a Negotiated Agreement)と言われます。

生活の、人生のプランB

多くの場合、プランBをプランAと同じ精度で作る必要はないでしょう。頭の中でのシミュレーション程度で用は足りることも多いかと思います。短期的には作業負荷が高まりますが、目的にダイレクトな手段を選べ、交渉にもトラブルにも強くなることを考えれば、長い目で見れば「プランBは?」と問い続けることで生産性が高まり、残業減らしの効果が出てくるでしょう。

転職する気がなくてもエージェントに話を聞いてみるのも、24ヶ月ぶんの生活資金を流動性の高い資産で持とうとするのも、プランBです。生命保険は、自分が支えている誰かのためのプランBです。

わたしはときどき、声が出なくなったときや目が見えなくなったときのプランBを考えます。人前で喋るような仕事は諦めることになるでしょう。そのときになって開けてくる世界もきっとあると思いつつ、いまろくなプランを思いつけないことにがっかりします。しかしそのシミュレーションは、いま自分ができる仕事をきちんとこなそうと思わせてくれます。