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コンセプトノート

439. 臨床思考士

なぜ、臨床心理士がいるのに臨床思考士がいないのか。
ふと、そんな問いが浮かびました。心のマネジメントと思考のマネジメントは同じくらい重要かつ難しいのに、片方にそれらしい資格があって、片方にないのはなぜなのでしょうか。

さっそく臨床心理士の定義を確認してみました。

臨床心理士は、臨床心理学を学問的基盤とし、相談依頼者(クライエント)が抱える種々の精神疾患や心身症、精神心理的問題・不適応行動などの援助・改善・予防・研究、あるいは人々の精神的健康の回復・保持・増進・教育への寄与を職務内容とする心理職専門家である。(Wikipedia)

治療という言葉こそ使われていないものの、「心の医者」という感じですね。考えてみると、心の病気という概念はあっても思考の病気という概念はありません。思考の病気を定義するとどうなるか、考えてみるのは面白そうですが、いずれにせよ心の病気の一部に吸収されそうに思います。

ではやっぱり臨床思考士は要らないか……と思いましたが、せっかくですからもう少し屁理屈をこねてみようと思いました。

わたしの大ざっぱな理解によれば、身体の治療学として医学が、精神の治療学として心理学が、位置づけられてきました。したがって心理学の研究は精神的な問題の治療や予防に集中しています。

しかし心理の学問であるからには、マイナスをゼロにするだけでなくゼロをプラスにする研究、引用文でいう「精神的健康の増進」に関する研究がもっとあっていいはずだという視点から、いわゆる「ポジティブ心理学」が生まれました。この研究の恩恵を被るのは精神的に健康なすべての人ですから、これからますます盛んになってもおかしくありません。

そのような「増進」ベクトルであれば、臨床思考士の出番がありそうです。いまこの瞬間にも職場では「うまく考えがまとまらない、まとまっても伝えられない、伝えられても合意できない、つまり物事が決まらない……」といった、病気ではないものの改善が望まれる問題が発生しています。そして、それらの「援助・改善・予防・研究」に取りくんでいるコンサルタントやファシリテーターはたくさんいます。彼らが臨床思考士です。

しかしふたたび引用文を読み返すと、臨床心理士は「臨床心理学を学問的基盤とし」ているとあります。臨床思考士が頼るべき「臨床思考学」なる学問はないので、やはり資格化は難しいでしょうか。

いや、そもそも決められた体系を学んで資格をもらおうという発想が、冴えないですね。必要な知識は自ら選んで学び、自らの臨床思考学を打ち立てていることが、臨床思考士の証となるでしょう。